【実践!里山生活術 】
Vol.16 薪ストーブのノウハウ(1)薪の種類と必要量

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

薪ストーブや薪づくりの運用面におけるノウハウは、それぞれの家族や環境などの事情によって多種多様だとは思います。ここでは(1)薪の種類と必要量(2)薪づくり(3)生活の中での効率性(4)メンテナンスの4つの場面に大きく分けて解説したいと思います。もちろん、我が家の事情がベースになっていますので、該当しない場面もあるかと思いますがご了承ください。

さて、まずは薪の種類と必要量について。薪ストーブに興味をお持ちの皆さんが気になさるのは、いったいどんな薪をどれくらい1シーズンで必要なのか?でしょう。実際に日常でも薪ストーブについて、いろいろと質問されることが多いのですが、最も頻度の高い質問は、「どれくらい薪を使うのか」ですね。ただ、実は我が家にとって、そしてたぶん他のユーザーさんにとっても、この質問には非常に答えにくいのです。※写真:我が家の薪棚。

前回までもご紹介してきたとおり、我が家の薪ストーブ事情は、やや特殊な部類になります。特に家の暖房をほぼ薪ストーブだけで賄うこと、そして最近はテレワークでいることも増えましたが、基本的に共働き家庭で朝が早く平日の日中は家に誰もいないことが多いことなどが特徴として挙げられます。

このことから我が家の場合、日常として薪に求めるスペックの優先度は、短時間での燃えやすさと燃焼カロリーということになります。実は導入前に暮らしの場面まであまり深く考えていなかったのですが、そうした日常の使い方には「カラマツストーブ」とマツやスギ・ヒノキなどの「針葉樹の薪」の組み合わせが結果的に最適だったのです。

ただし、針葉樹の薪は瞬間的に燃えすぎてストーブ本体を痛めるなどの理由で、一般的なユーザーには好まれません。一方、ナラ類に代表される広葉樹は火付きはあまりよくありませんが、針葉樹と比べて火持ちすることが多いです。我が家では、それぞれの特徴を活かせるような使い方をしています。※写真:我が家でよく使う薪の種類。

上の写真は我が家でよく使う薪の種類です。手前から順に広葉樹のアベマキ、コナラ、ミズナラ、針葉樹のスギ、アカマツと並んでいます。わかりやすくするために皮付きの薪を選びましたが、割る部位によっては芯の材だけの薪もできますし、長さは揃っていても余程選別された高級薪でない限り、太さはバラバラです。

一番手前のアベマキはその名のとおり好んで薪に使われるのは、恐らくその皮部分のコルク質に火がつきやすいからではないかと思われます。ちなみに広島県北部には大手ビールメーカー所有のアベマキの森があって、戦前にビール瓶の王冠裏のパッキンやワインの栓などに使えるよう植林もされた歴史があるんですよ。※写真:庄原市のアベマキの森。

また、コナラは広島の広葉樹としては最も広く分布し量も多く、ミズナラはコナラよりも標高の高い地域にだけ分布します。どちらも本当は薪にするには、もったいないくらい家具やフローリングなど幅広く使えますが、ミズナラのほうがウイスキーの樽材にも使われたりして高級なイメージがあります。

最近、紅葉のシーズンでもない梅雨明けに、こうしたナラ類の木が赤くなっているのを気にされた方もいらっしゃると思います。実はこれは「ナラ枯れ」といって、カシノナガキクイムシが木の中に入って病原菌を広げているために起きているもので、その木の下に行くと木屑がいっぱい出ています。その防除のためには被害に合う前に伐って使ることが重要で、切り株から新しい芽が出て被害にも遭いにくくなると言われています。そうした意味でも薪とはいえ使われることには意義があります。我が家では、広葉樹の薪については、幸い家を設計・施工していただいた地元工務店が製造・販売・運搬までしてくださるので、そちらにお任せしています。※写真:ナラ枯れ被害の木。

さて、一方の針葉樹のスギやヒノキはほとんどが人工的に植林されたもので、当然これらも建築材としても有用なのですが、立派な林にするために抜き伐りしたものや伐った後の残材など比較的手に入りやすいです。アカマツについても枯れたり枯れかけを伐ったものをもらってきたり、民家の改築の際に出た立派なマツの梁桁材を分けていただいたりしたこともあります。我が家では、それらを原木として入手して運搬し、次回詳しくご紹介しますが,人力でなるべく自作することが多いです。

そして最終的に、我が家でどの種類の薪がどれくらいいるのかというと、大まかな目安として体積で約6立方メートル(4立方メートルほど入る薪棚+軒下に2立方メートル)、重量で約4トン(広葉樹の購入を3トン、針葉樹の自作を1トン)の薪があれば安心ということになるでしょうか。これは、その冬の寒さで多少変動しますし、現状の針葉樹の自作薪の量を増やせば、広葉樹も割合が減ることになると思います。

また費用については、各原料の高騰により薪の単価も上がってきているのは仕方ないことですが、最近では広葉樹の薪を3トンほど購入すると十数万円はかかると思います。以前は灯油代との比較で優位性が言われた時期もありましたが、日常のいろんな手間なども含めて冷静に考えるとトータルでどうなんだろう?と思うことはあります。前回ご紹介したとおり、そうした現実を超えるだけの副次的効果があることから、感情と財布の折り合いをつけているのが正直なところですかね。

次回は、薪づくりのノウハウです。この領域もかなりマニアックな世界で、それぞれ流儀はあると思いますが、ここ10年くらい毎年1、2トンくらいは割り続けてみてわかったことや使っている道具などについて、ご紹介したいと思います。

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