【実践!里山生活術 】
Vol.15 薪ストーブの副次的で本質的なお楽しみ

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

前回、「次からは薪ストーブの運用の試行錯誤の過程をまとめたい」としましたが、その前に、薪ストーブを使うと日常でどんな“お楽しみ”があるかを、まずはご紹介したほうがいいと思い至りました。ここでのお楽しみとは、暖房器具としての機能面ではありません。それだけでは、はっきり言って、割に合わないと感じる人も多いと思うからです。

暖房の手段としてだけで薪ストーブを導入すると、 非常に面倒で予想以上にコストもかかることに、 時々うんざりすると思います。次回以降にまた詳しくご説明しますが、 薪づくりのための原木の手配から薪割り、 それらを省略してもその乾燥や使用のための積み替えと運搬、そして薪ストーブや煙突のメンテナンスなどなど、手間を楽しむくらいの余裕がないと続けるのは難しいかもしれません。

ただ、これからご紹介するような「副次的」だけど「本質的」な薪ストーブの楽しみかたは、間違いなく日常の生活を豊かにしてくれます。むしろ、そんなお楽しみがあるからこそ、先述のような面倒な部分を乗り越えられるとも言えます。薪ストーブを将来導入されたいと考えておられるかたは、こうした側面も含めて機種を選定されるとよいかと思います。

さて、第1のお楽しみについて、薪ストーブですから当然火を使います。機種にもよりますが、ほとんどの場合、着火はアナログで行うはずです。そこで当然ですが、薪に火を付けるという行為そのものが日常になります。要するに冬場は毎日キャンプでやるような焚き火を自宅で楽しめます。※写真:薪ストーブの中でファイヤー。

我が家の信州カラマツストーブの場合、奥行きがあるので長めの薪や枝などの材が使えますし、燃焼温度にもあまり気を使わないですむので、比較的ワイルドに燃やせます。小さいけれど耐熱ガラスの窓もあり、単純に焚き火欲を満たすことができる一方で、以前のようなキャンプ場や河原でファイヤーをしたくてたまらないという気分は弱くなりました(笑)。

夜中、家族が寝静まった後に、土間に椅子を置いて熾火に端材を足し炎を観ながら、バーボンロックをグラスでチビチビすする、なんてことももちろん可能で最初の頃は喜んでやっていました。今では疲れや酔いに勝てず家族よりも先に寝てしまう毎日ですが。※写真2:ストーブの上に網を乗せて餅を載せるだけ。

第2のお楽しみは、ストーブの上面を使った煮炊きです。これもほとんどの機種で可能だとは思いますが、我が家の場合は燃焼効率が良すぎてコトコト煮込むのはどちらかというと不得意で、鋼板の遠赤外線でお餅をふっくらこんがりと焼いたりするのが得意ですね。これは主に家族に好評な楽しみかたです。

また寒い夜には、なにより温かいお酒が欲しくなりますが、乾燥防止のためにだいたいお湯を沸かしているので、その中でお燗をつけるにはたいへん便利です。我が家はル・クルーゼという鍋を使っていますが、この鍋と錫製の徳利でつける燗酒は最高だと個人的には思っています。※写真3:ル・クルーゼでつけるお燗の風景。

そして第3のお楽しみは、なんといってもストーブ内で仕上げる料理(酒肴)ですね!このお楽しみを最大限優先して本格的な調理に使用するなら、薪ストーブの構造上機種が限られますが、実は仕上げだけなら大概の機種で可能だと思います。

例えば焚き火料理の定番、ピザを大人数で切り分けるようなサイズで焼こうとするなら特殊な構造か、それこそ専用のピザ窯が必要になりますが、小さいサイズでもいいなら市販のストーンプレートを使えば、薪ストーブの中でも焼き上げることは十分可能です。※写真4:自家製薪窯ピザの出来上がり。

また熾火の上に直接置けるような鉄製のプレートなら直火グリルもできます。特に薪の樹種をその料理に合わせて、例えばヤマザクラに限定して焚いておけば、特有の香りも移すことができ、簡易なスモーカーにもなりますよ。もちろん、自家製ベーコンの仕上げなんかにも使うといいですね。

我が家は薪ストーブが土間の中心にあるので、地元の仲間家族が集まった時には、小さめの丸鶏をあらかじめオーブンで焼いておいて、薪ストーブ内での仕上げだけ、みんなの前でご披露したことがあります。とっても盛り上がって、美味しくいただけるのでオススメですよ。※写真5:鶏丸焼き薪ストーブフィニッシュ。

まだコロナ禍で、なかなか以前のように集まることができなくなりましたが、家族でも日常の生活に余裕があれば、こうしたお楽しみが薪ストーブを維持するモチベーションになります。むしろ、そうした余裕をきちんと確保する、ということの方が課題になりますが、これは我が家でも改めて考えないといけないことです。

また、これらだけは冬限定のお楽しみになってしまいますが、薪ストーブの本体は、夏場は土間空間の印象的なオブジェにもなります。飾りつけたり、逆にシンプルに花瓶などを置いたりして、年中そのフォルムを楽しめると思いますよ。※写真6:夏の土間の薪ストーブ。

さて、次回はいよいよ薪ストーブや、薪づくりの運用面の課題です。こうして本文をまとめている間にも、その課題への対応方法にいろいろと変化が生じています。逆に言えば、そうした課題に向き合うことで生活を改善・改良する契機にもできます。そんなお話に繋げたいと思っています。

Hiroshima Personの最新情報をチェックしよう!