【実践!里山生活術 】
Vol.25 風土を感じる酒肴(6)県北部の「ナバ」の食文化

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里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

この原稿が皆さんに読まれる頃には、周囲の景色は稲刈りが終わって紅葉も進み、薪ストーブに火を付け始める頃かと思います。前号の終わりに記したとおり、この頃地元の方がソワソワワクワクしているのは「ナバ」のことです。

「ナバ」とは広島の方言でキノコの総称です。その代表的・象徴的なキノコは、やはりマツタケですね。なぜこの時期ソワソワするかというと、例年ちょうど稲刈りが始まる9月中旬以降にマツタケの収穫のピークを迎えるからです。※写真:我が家で最後にいただいたマツタケ。

マツタケの発生・生育には、適切に手入れされたアカマツ林であることはもちろん、気温と水分が重要な条件です。典型的には地温が19℃以下になると生え始めると言われていて、しかもその時期に適度な降水が必要とされています。そのため毎年の気象条件によって、豊作だったり極端な不作だったりするのです。

ちなみに今年(2022年)は比較的雨が多く、台風14号が過ぎてから急激に気温も低くなっているので、どうやら豊作の期待も寄せられているようですね。もっとも近年はお値段がかなり上がっていて、我が家でいただいたのはいつ以来か?すぐに思い出せないくらいです(笑)。

ところで、県北部ではコウタケというキノコも人気で、もしかするとマツタケ以上に重宝されていることも見聞きします。その名のとおり、独特の芳醇な香りが楽しめ、またいまのところ量も毎年安定しているので、こちらは時期になれば比較的簡単に手に入ります。ただし、こちらのナバは標高の高い広葉樹林内に多く発生するので、収穫しに行くのがたいへんな箇所が多いと思います。※写真:スーパーに並ぶマツタケ,コウタケ,コノハカズキ。

また県北部のスーパーや産直市などでは、マツタケやコウタケ以外にもホウキタケ(地元の呼称はネズミタケ)、クリフウセンタケ(コノハカズキ)、ホンシメジなど多様な種類が並んでいるのをよく見かけます。自分の?山に入って収穫したのを楽しまれている方も多いようで、この地域のキノコ食文化は意外に奥深いようですね。

実は前の職場でも、この時期に来客や電話で一番よく聞かれる質問は、「このナバは食べられるのか」という内容でした。もちろん、私はキノコの専門家ではないので直接お答えすることはありません。ただ、本当にキノコに詳しい専門家は同定はしても自分では食べないことが多いという話を聞いてから、それくらい野生のキノコはリスクがあるんだなという認識はいつも持っています。※写真:マツタケご飯にすると家族皆で香りをたくさん味わえます。

ということで、自分で採集して作るものではなくて申し訳ありませんが、ナバを使ったメニューをご紹介します。我が家ではマツタケは汁物や天ぷら、コウタケは塩漬け、すき焼きというように定番はありますが、なんといってもこの時期は炊き込みご飯でしょう。しかも地元の新米で!鯛や太刀魚などの白身魚を焼いて、庭の青紫蘇の実と一緒に混ぜ込めば、立派な酒肴にもなります。※写真:山岡酒造さんの日本酒はラベルが特徴的で可愛いです。

合わせるお酒はもちろん日本酒、この時期ならではの「ひやおろし」をひや(常温)やぬる燗でいただくのもいいですが、生酒のまま、ひと夏超えて味わいが増した頃に出荷される三次市甲奴町「瑞冠新撰組純米吟醸しずく生酒」のちょい濁りを毎年楽しみにしています。

また、県北部で野生キノコを使ったお料理でオススメできるのは、旧豊平町と旧千代田町のほぼ境にある「森のカフェ&レストランDude」さんです。こちらのマダムはキノコの専門家を迎えた観察会をされたり、信頼できる仲間と一緒に採集されているので、安心していただけます。※写真:コウタケのフリッターがトッピングされたパスタ。

しかもマスターは大使館のシェフをされていたくらい本格的なイタリアンレストランなので,パスタやピザなど面白い組み合わせでいただけますよ。立地・建物もまさに森の中のログハウスです。

◇「森のカフェ&レストランDude」のフェイスブックページ

https://www.facebook.com/profile.php?id=100057527106733

次回はこの地に移住した頃からずっとお世話になっている養鶏家、buffoさんの合鴨を取り上げたいと思います。寒い季節に最高なお鍋だけでなく、毎年いろいろな酒肴に試しています。

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