【実践!里山生活術 】
Vol.27 風土を感じる酒肴(8)晩秋からの大根のありがたさ

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

県北の里山地域では、11月下旬にそれぞれの神社で行われる新嘗祭、すなわち秋の収穫も終わり新穀の恵みに感謝の意を捧げる祭典が終わると、いよいよ冬の準備に入ります。朝晩の冷え込みが強まるこの時期、雪虫と呼ばれる綿のような白い毛を纏ったアブラムシの仲間が舞うと、天気予報に雪マークが入り始めます。※写真:皆さん雪虫を見たことありますか?

この頃、地域の話題は今年の冬の積雪やスタッドレスタイヤの交換のタイミングです。沿岸の都市部に車で通勤しているので、皆さんより早めに準備しないといけません。それと薪の手配もしておかないと冬に凍えてしまいます。

そして、我が家の菜園も冬の準備です。毎年夏場に放棄してしまうのは既報のとおり。それでも秋口には再度きちんと畝を整え、冬に向けた畑の準備を毎年欠かしたことはありません。なぜなら、大袈裟に言えば一年で最も厳しい気候でもなんとか生存できる、そんな暮らしの知恵や技術を少しでも経験・習得しておきたいからなのです。薪ストーブを利用するのもその一環と言えます。

もちろん、冬の食料も薪の利用も全て自家製というわけには現状では至っていません。それどころか、ほとんど外部の資源に頼っているのが実態で偉そうなことは言えません。それでも可能な限り拘りたいのは、この地に移り住む前後に目の当たりにした震災や社会事情が影響しているのは確かです。※写真:とはいえ、猫の額くらいの小さな菜園でもきちんと管理できていません。

さて、いつも前置きが長くなり恐れ入ります。今回の主役は「大根」です。先述の秋冬シーズンの菜園に欠かせない野菜であるにもかかわらず、手間要らずで寒さに強く、ずっとその恵みを楽しめる,私が知る限り唯一の野菜です。

実は大根との付き合いは長く、 17年前から同じ町内の旧芸北町八幡で大根づくりのお手伝い(ボランティア)を始めて、10年ほどいろんな方々のご協力をいただきながら販売や加工へ繋ぐ経験をさせていただいたこともあります。家庭の都合で、そのお手伝いは途切れてしまいましたが、大根への愛は変わることはなく、毎年育てています。

その愛を語り出すと長くなるので、我が家での大根の栽培過程と、その酒肴としての楽しみ方をご紹介するまでにしましょう。まずは、播種から間引きにかけてです。大根の品種は普通にスーパーなどで見かける「青首大根」です。ちなみに、私の故郷方面が起源のおでん用「源助大根」や山陰の「辛味大根」にもハマった時期がありましたが、またの機会に。

青首大根であれば、種は近所のホームセンターでも一袋300円程度で年中買えますが、秋冬シーズンは耐寒性の強いもので、特に春先まで本体を楽しもうと思えば「ス」が入りにくいとされるものを選びます。スとは大根の中に隙間や穴が空いてしまう現象で、煮物で食べられなくはないのですが、少し繊維を感じたり、逆に弾力がなくなってしまうので、できれば避けたいのです。

購入した種の袋の中には300粒ほど入っているでしょうか。これを畑の畝に深さ2cmくらいの直線状の筋を作り、10cm前後の間隔で3粒程度ずつ固めて撒いて、最後に軽く土を被せて水を撒きます。と文章で書くと、いかにも簡単そうですが、実際とても簡単で、よく子どもたちにやってもらいます。

毎日水やりを忘れずにすると、5日後くらいには、一斉に発芽します。さらに2週間ほど経過すると、まさに貝割れ大根のように伸びてきます。その時点で1箇所に3粒程度と思っていたのが、実際には倍以上撒いてしまっているのがわかます(笑)。計算上100本収穫できるはずが、実際には三分の一ですね。

最近は、子どものイベントで週末なかなか家に居れないため、合うタイミングでまとめて間引きをします。その場合は、一気に1箇所1本に揃えます。その時に大量に出るのが「間引き菜」です。そして、まずはこれが最初の酒肴になります。ただし,そのためには非常に手間のかかる「シゴウ」(※広島弁で準備作業)が必要です。※写真:収穫した間引き菜。毎日少しずつ、いただくことが理想ですが…。

時間をかけてシゴウした間引き菜は揃えた状態でさっと湯でて冷まし、水切りしておけば、さまざまな具材として使えます。ただし、痛むのも早いので、豚しゃぶ出汁鍋などに大量に入れてどんどんいただきます。

間引きした大根は、肥料などをあまり入れていない固い土壌の我が家菜園でも意外に大きく育ちます。また冬の間の積雪や凍結にも耐えてくれ、必要な時に必要なだけ抜いてからいただけるので、まさに冬の間の食料セーフティーネットですね。※写真:収穫はもちろん子どもたちが主役。家族のいい思い出になります。

抜いて間もない瑞々しい大根は、お刺身の「ツマ」に最適です。我が家では、とある割烹料理店の真似をして、不揃いに角切りしたものを添えます。大根の歯応えと甘さをダイレクトに感じられていいですよ。大根の葉も冬季は痛みがちですが、中心部はきちんと緑が保たれています。大根菜といえば、瀬戸内のジャコや油揚げと一緒にお酒と醤油で炒めただけのシンプルな料理が定番です。お酒はもちろん、ご飯にたっぷりかけていただくのは子どもたちにも好評です。※写真:今回出てくる主な酒肴をご紹介します。

そして、終盤には当然、おでんやシチューなど各種煮物に重宝します。先述のとおり、スが入ったり、凍って痛むものも出てきますが、家庭でいただくには何の問題もありません。身近な畑からいただく、ありがたさを子どもたちもきっと感じているはず。

このように多種多様に無駄なくいただけるので、合わせるお酒も特に決まっていません(笑)。強いて言えば、私のおでんのルーツは北陸のそれなので、やっぱりお燗酒が馴染みますね。出汁と温かい日本酒って最強の組み合わせですから。今回は個別の銘柄の紹介はありません。※写真:春先の畑の準備をしながら花を愛でることができます。

最後に、畑の大根は特に傷んだものを無理に抜かず、春先までそのまま置いておきます。するとポカポカ陽気になる頃には、大根の中心から塔が立ち、可憐な白いお花畑になります。もちろん、その途中に菜の花をおひたしに、熟す前の種も炊き込みご飯でいただきます。どこからか蝶もやってきて春の始まりを感じさせてくれるのは嬉しいですね。

さて、次回は冬本番。年末年始や年明けに開催される伝統行事「とんど」でも欠かせない食材といえばお餅ですね。お雑煮のお話など、まとめてみましょうか。

Hiroshima Personの最新情報をチェックしよう!