【実践!里山生活術 】
Vol.23 風土を感じる酒肴(4)毎年楽しみな真夏の天然鮎

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

今年は記録的な梅雨の短さで、頻発する線状降水帯による豪雨もほとんどなく、安心して過ごせる夏となりました。逆に雨量の少なさで農業をされている方には心配な日々が続いています。毎年ちょうどいい気候というのは、なかなか難しいものですね。

誰にでも毎年来るもの、といえば誕生日です。私は8月生まれだからか、ちょうどこの時期の旬の食材に好物が多いのです。特に毎年楽しみにしているのは天然鮎です。ただし、鮎の生育や釣果には気象条件が大きく影響しているので、出会えるかどうかは運次第です。

私自身は鮎釣りをしないし、きちんとした食べ比べの経験もありません。ですので、よく聞く「釣れた川によって鮎の味や香りが異なる」という言説については解説できません。けれども、いわゆる里川(人の暮らしや営みに影響を受ける里山や里地を流れる川)で獲られる鮎だからこそ、まさに風土を感じて味わう意義があると思っています。

幸い我が家のご近所には、そうした鮎を漁師さんから直接仕入れていただく直前まで活かし、確かな技術と温かいおもてなしで本当に美味しく提供してくださる和食店があります。おかげさまで鮎を食する会は我が家の毎夏の恒例行事となっています。

※写真: 家族で彩蔵さんに伺うのが楽しみな子どもたち。

そのお店「四季乃家 彩蔵」を営まれる山本夫妻は、我が家と親子共に同世代ということもあり、移住前後から節目ごとにお世話になっています。お店と夫妻の存在が、この地に移住を決めた大きな要因のひとつといっても過言ではありません。このエピソードは、次の連載テーマとして考えている「人」で詳しく触れたいと思うので,楽しみにしていてください。

■リンク: 四季乃家 彩蔵 https://shikinoie-ayakura.jp

さて、天然鮎のお料理です。その味と香りを直感的に楽しむなら、一番は炭火焼きですね。しかも調理の直前には活きた鮎を席まで見せにきてくださいます。子どもたちが一番盛り上がる瞬間ですね。獲れた川も教えてくれます。この一手間がとてもありがたく、風土を感じるための有意義な時間です。

※写真: 活きた鮎をこれからいただくという喜びと感謝の気持ちに。

流れを泳ぐような姿で芳ばしく焼かれた鮎、我が家の子どもたちは躊躇なく頭から齧り付きます。特に言いつけたわけではなく、そうしたほうが美味しいことを幼い頃から知っているのです。最後は姿形もありません(笑)。

※写真: 見事に炭火焼きに仕上げられた天然鮎の迫力。

彩蔵さんのコース料理では、最後に土鍋で炊いた季節のご飯を出していただけます。鮎の季節は、ちょうど地元産のスイートコーンの収穫期なので、見た目も鮮やか、本当に甘くて香り豊かで食べ盛りの子どもたちも大満足です。

※写真: 炊き込みに使われる土鍋も地元陶芸家の作品。

大人の楽しみは季節の日本酒、いわゆる夏酒ですね。天然鮎の炭火焼きと合わせるなら、個人的には少し濁って微発泡なんだけど、辛口の味わいの純米酒が好みです。彩蔵さんは地元の酒蔵のオリジナルな銘柄はもちろん、全国から話題の日本酒を取り寄せています。お料理に合わせ、おまかせで提供していただけるので、飲み慣れている方もそうでない方も満足されると思いますよ。

※写真: この日のおまかせの日本酒は倉敷・十八盛のその名もBubble Ring。

ひととおりお料理を満喫した後に、奥のカウンターでいただく本格焼酎や生ビールも最高のひとときです。女将さんの実家が石材店なので、カウンターも特別な石材を使用されています。先に挙げた彩蔵さんのサイトのトップ写真をご覧ください。北広島町という立地ながら、都会でもなかなか出会えない洗練された空間です。

実際に広島市内から定期的に通われている食通の方も多いそうで、だんだん予約の取りにくいお店になってしまって少し複雑な気持ちではあります。逆に言うと、こういう立地で風土を感じるお料理や、空間に対するニーズが高まっているとも解釈できますね。

今回はオリジナルな酒肴の紹介でもなく、里山の生き物解説もなく、なんだか「のんべい」なブログ記事のようになってしまいました。でも真面目な話、地元に非日常のお店があることも里山暮らしのスパイスとして重要だと思います。

特にコロナ禍で外食がしにくくなり、もともと行けない中山間地域ではなおのこと、毎日の食卓の準備や後片付けに心労が溜まっているかと思います。そんなご時世だからこそのお店の価値があります。我が家もテイクアウトも含めて、ずいぶん助けていただきました。これからもずっとこんな関係が続くはず…。

さて、次回の掲載の頃には夏休みも終わり、朝晩寒いくらいの気候になっているでしょうか。そうなると酒肴も日本酒のセレクトにも変化が出てきますよね。地域の寄りがあると、どこからともなくよく出てくる、里山ならではの山の幸、「アレ」の話にしようかなあと思案中です。どうぞお楽しみに!

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