【実践!里山生活術 】
Vol.24 風土を感じる酒肴(5)年中楽しめるジビエ!

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

広島の県北部では、お盆を過ぎると急に一日の気温差が激しくなります。近年は温暖化の影響か日中は夏日になることが多いながらも、朝晩はちゃんと冷え込み朝霧が出る日も増えてきて、体感的には一気に秋の気分です。

また、中山間地に暮らしてみてはじめてわかることとして、家族の帰省で瞬間的に地域が賑やかになり、いまはコロナの影響で難しくなった夏祭りでは壮大な宴が続き、ひと通り盛り上がった後の静けさというか、寂しさという雰囲気がお盆過ぎにはあります。

それでも田んぼの稲がどんどん黄金に色づき、周りの農家さんたちは稲刈りの段取りで忙しくなる一方、収穫後すぐに始まる秋祭りに向けて、地区ごとに「奉寄進(きしんたてまつる)」と書かれた幟が立ったたり、地元神楽団の練習の音が聞こえ始めると、ワクワクしてくる感覚もわかるようになりました。※写真:我が地区の奉寄進幟。竹でできた支柱を皆で力を合わせて立てます。

さて、祭りはもちろんのこと、地域の寄りがあると、誰かがどこからともなく出してくる里山ならではの山の幸、「アレ」の話にしようかなあと前号で触れました。「アレ」とは今回のテーマ「ジビエ」です。

「ジビエ」(gibier)はフランス語が語源で、直接的には「食材として狩猟された野生の鳥獣肉」のことを指すようです。ただし、実際にはそうした狩猟による生業や趣味的な産品としてだけではなく、里山暮らしに直結した、とある大きな地域課題とセットで取り扱われることが多いのが実情です。

その課題とは、農作物の鳥獣害です。広島県の資料によると、令和2年度の県内被害額はイノシシによるものが約3億5800万円、シカによるものが約5,300万円にもなるとされており、10年前と比べるとやや減少しているとはいえ高止まり傾向にあります。

(リンク: 広島県農林水産局農業技術課:鳥獣による農作物被害額の推移について : https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/chojugai/higaigaku.html

我が家でも菜園を初めて2シーズン目、イノシシに収穫直前の枝豆をほとんど食べられました。こうして収穫直前にやられると、実際の被害そのものというより、期待していただけに精神的ダメージが大きいという、獣害でよく聞く話を実感できました(泣)。※写真: 初めての被害の様子。この後,地元の方に手伝ってもらい柵を張りました。

広島県における狩猟期間(令和3年度)は、毎年11月15日から翌年2月15日(イノシシとシカは末日)まで、というように決まっています。しかしながら、先述の有害鳥獣については市や町が許可すればその範囲内で、極論すれば年中捕獲できます。

ということは、許可がいるとはいえ、どんどん獲りまくって、その肉を食べるために流通させれば獣害は解決するのでは?と思いますよね。でも実際はいろんな事情があってそうは簡単にいかないのです。

もちろん、そうした課題に直接取り組んでいる自治体や団体、個人などもたくさんあります。私も以前ボランティア団体として取り組みかけたこともあります。ここで皆さんが理解できるよう解説するには複雑すぎる問題なので、興味がある方はネットなどで調べてみてください。

話をジビエ(肉そのもの)に戻します。里山に暮らしていると、まさにどこからともなく、ジビエが手元に来ることが実際にあるのです。思いがけず、しかも時に大量に。ただ、そうして分けていただけるジビエの肉質は例外なく素晴らしいものばかりです。生肉だけでなく、冷凍技術が進んだ最近では、皆さんそれなりにストックがあるようです。

まずイノシシ。春は筍、夏・冬は農作物、秋は果物などを食べ漁っているだけあって、野生でも適切に処理されていれば臭みはまったくなく、本当に美味しくいただけます。特にモモ肉の大きなブロックなら焼豚(ローストポーク)的に調理することが多いですね。※写真: イノシシもも肉のローストの仕込みと盛り付け。

そしてシカ。県北部で近年急速に生息数が増えています。イノシシに比べ地域の宴で出てくることはまだ少ないですが、独特の筋を避けてうまく捌けば、肉質はイノシシより柔らかい赤身でむしろ使いやすいですよ。我が家の定番メニューはカツです。味付けもハーブソルトで十分です。※写真: ニホンジカのハーブソルトカツ、子どもたちに好評。

合わせるお酒は、やはりワインですね。しかも野生的な酸味が特徴で、寒冷地でも育てやすいヤマソービニオンという山葡萄由来の品種でつくられた地元産の赤ワイン。毎年早めに売り切れるので、気になる方は町内の道の駅などで探してみてください。※写真:北広島町ホッコーわいなりー「山紫野」:  https://www.hokkoh-farm.jp)。

こんなふうにジビエを地域の仲間と味わう時は、我が畑の○○を食らった主じゃけ、美味いのう」とか冗談も交えて談笑します。そんな時、地域の人は野生の鳥獣を憎しみの対象というよりは案外リスペクトしているんだなと感じます。そして、私も最近そんな気持ちがわかるようになりました。

最後に、ジビエの流通が複雑で課題といいながらも、その中で地元の有志が製品化に取り組んでいますので、ご紹介したいと思います。とにかく肉の処理と熟成にこだわっています。道の駅 舞ロードIC千代田でも購入できますよ。

(リンク: 千代田ジビエ工房 池田屋: https://ikedaya.ocnk.net

次回は、稲刈りもすっかり終わって秋の祭典も近づき、冬を迎えるための準備も始まる頃でしょうね。この頃、地元の方がソワソワするのは「ナバ」のことです。さて、なんのことでしょうか?お楽しみに!

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