【実践!里山生活術 】
Vol.14 理想の薪ストーブを求めて信州へ

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

私が生まれ育ったのは中山間地域とはいえ住宅地であり、実家には山林や田畑の所有はなかったので、家の中で薪を使う暮らしは経験したことがありませんでした。まだファンヒーターも少なかったころ、冬の暖房には石油ストーブが当たり前で、強いて挙げれば母方の実家で五右衛門風呂の焚き付けを見た記憶があるくらいでしょうか。

そんな私がいきなり薪ストーブにこだわった里山暮らし、薪ストーブだけで暖を取る生活を考え始めたのですから、何かきっかけがあったはずです。もちろん書棚を見れば、薪割りの楽しさを広めた、まさに火付け役である岩手県の深澤光さんの本も数冊並んでますので、頭の中ではそんな世界が構築されていたのでしょう。※写真:我が家の書棚にある薪関連の書籍・雑誌。

ただ、学生時代から関わってきた森林ボランティアの全国ネットワークでの活動で、深澤さん以外にも里山の環境整備や木質バイオマスの普及に関わりながら、その地で循環的に暮らすライフスタイルを実践する人がたくさんいて、そんな人たちと交流する中で自分もそうありたいと感じていた、というのが実際のところだと思います。

そうしたアプローチから入った薪ストーブ生活の実践ですから、またしても「思い」が強くなってしまい、一緒に暮らす家族や、家づくりのパートナーとなる工務店さんにもご迷惑をおかけした(ている)ところです。何より、私が理想として導入しようとしたのは、長野県で森林整備活動を長く続けてこられた団体が地元の企業と一緒に開発したオリジナルの薪ストーブ、その名も「信州カラマツストーブ」だったからです。

土地が決まり、前々回ご紹介した地松材の入手ルートにも目処がたって、いよいよ家の設計も最終段階になりつつあった2012年3月下旬、関東方面の学会出張前にプライベートで訪問したのは、長野県茅野市を拠点に活動されているカラマツストーブ普及有限責任事業組合でした。※写真:薪づくりのためのカラマツ材の集積地。

わざわざ最寄り駅まで車で送迎くださった組合代表のSさんは、とても穏和で山の話が好きな方でした。実はこの組合の活動は、1960年代のリゾート開発ブームに立ち向かうハードな環境保護活動が原点になっているのを知っていたので、お会いする前まではちょっと緊張していたのです。活動拠点の薪集積地にあるビニールハウスでは、実物を囲んでご年配のメンバーと一緒に薪ストーブ談義をさせていただき、お餅まで焼いて食べさせていただいて、とても楽しかったのを憶えています。

信州カラマツストーブは、その名のとおり長野周辺に植林されて利用が進まないまま放置されているカラマツを整備しながらエネルギーとして活用し、循環型の地域社会の構築や活性化に繋げるという壮大なプロジェクトの中核アイテムとして開発されたものです。そうした理念を実現できる技術的な工夫も伴っていて、しかも暮らしの中での実用性がとても高いことを細かく丁寧に教えていただきました。※写真:現地で見せてもらったカラマツストーブ。

まず私が現地で知りたかったのは、カラマツ以外、特に広島のアカマツの薪もうまく燃やせるのかということでした。その疑問には、開発過程であらゆる針葉樹の高温燃焼(1000度前後)にも耐えることができるよう本体に厚い鍛鉄(日本刀などにも使われる)を採用し、溶接にも拘っていることから樹脂の多いアカマツも全く問題ないと太鼓判を押してくださいました。もちろん広葉樹の薪も使えるとのことで、安心できました。

また、日本の伝統的な燃焼様式を集約しているという技術的な側面にも惹かれました。取説として本格燃焼する前に先に灰を溜めて慣らしておくのですが、これは実は囲炉裏の原理で灰の上で燃やすと燃え尽きる前に熾き状態が続くので火持ちが良いためなのです。また独特の長細い形状は、比較的長めの薪を投入できるので効率が良さそうだし、実物の黒光りしたフォルムもカッコイイと感じました。※写真:我が家でのカラマツストーブの燃焼の様子。

このように、まさに「惚れ込んで」カラマツストーブの導入を勝手に決めたものの、施工には独特のノウハウが必要でした。ところが、設計をお願いしていた工務店、八重製材所さんがしっかり情報共有して技術的なノウハウを吸収され、設計に反映していただいたどころか、なんと広島で唯一の「カラマツストーブ代理店」にまでなってくださいました。本文を読んで興味を持たれた方は、ぜひご相談に行ってみてください(笑)。

ということで、理想の薪ストーブに出会えた次なる課題は、現代的な構造の住宅と生活スタイルに合わせた運用です。次回、使いこなすようになれるまでの試行錯誤の過程をご紹介します。

Hiroshima Personの最新情報をチェックしよう!