【実践!里山生活術 】
Vol.13 木へのこだわりと社会的意義

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

前回は家づくりの中心に地松を取り入れた経緯をまとめてみました。これを一言で「こだわり」としてしまえば、自分以外の方にはそれ以上の思いを感じてもらえにくくなりそうですが、せっかくの機会なので、我が家づくりの過程での木づかいについて、もう少しだけ「こだわり」とその根底にある思いを語らせてください。

とはいえ、当時の自分としては、木材の専門知識は少なく、業界の常識も知らなかったので、俄かな知見で素朴な思いを伝えたところ、工務店さんや家具職人さんが頑張って希望を叶えてくださった、というのが実際だったと思います。その意味では、読者の皆さんで家づくりの際に木づかいに興味がある方は、施主の思いを聞いてくれる工務店さんや職人さん探しも含めて、参考にしていただけるかと思います。

さて、まずは家の外観、特に外壁について。当時雑誌や書籍で、その建築物の写真や家主とのプロセスに憧れていた建築家の中村好文さんに勝手に影響されて、古びた「小屋」のイメージが先行していました。今時の新築で、そうしたイメージを形にするのは本来困難なのですが、工務店の設計士さんは粘り強く、こちらの思いを汲んでくださり、外壁は焼杉板(磨き)になりました。しかも広島県のメーカーの商品です。

杉板を外壁に使うのは伝統的な建築物では、ごく普通ですが、現在の高断熱・高機密住宅の仕様で使われるのは少ないと思いますし、何よりも一般的なサイディングよりも当然手間がかかったそうです。おかげさまで希望通り、山小屋風?(笑)の外観になりましたが、現場の職人さんに感謝するしかありません。以降、ご紹介する木づかいの当初仕上がりはvol.11でもご紹介した工務店の施工例のサイトの写真(https://www.yaeseizai.jp/sekourei/1780.html)を参照ください。

本当はここから経年で、もう少し早くシルバーグレーに枯れることを期待していたのですが、焼杉本来の保存性が発揮されながら炭化した部分が落ち、9年経過した現在では「浮造り」状態となった杉板本来の色が大部分になっています。あと、さらに10年くらいすると理想の枯れ具合になるでしょうか。それにしてもメンテナンスしていないのに意外に割れや反りなども少なく、安定した材料であることに改めて驚きます。

※写真:現在の杉板の外観。

外観の一部となる玄関は、土間との連続性を考えて引き戸にしたかったのですが、既製品ではなかなか気に入るものがなく、同じ杉材を高温熱処理された耐久性のある「サーモウッド」と呼ばれる材料(国産杉使用で工場は関東)を使って、実験的に造作していただきました。これは当時、仕事で何度か伺った東京大学弥生キャンパスの中にあるセミナーハウスで使用されていたことからヒントを得たものです。担当の設計士さんが個人的に関わった美容院で、ちょうど似た材料を使ったことがあるとのことで、この実験に付き合っていただきました。とはいえ、得体の知れない材料で引き戸を作ってくださった建具屋さんに感謝です。※写真:玄関引き戸のサーモウッドの表情。

玄関は、ちょうど西側に位置するので木材としては環境が厳しく、実は何度か反りで開かなくなったり、閉められなくなったりもしました。最終的には締め金具を増やして無理やり安定させましたが、今でも時々機嫌が悪くなって鍵が閉めにくくなるし、冬場は隙間風がどんどん入ってきます。それでもなかなか憎めない可愛い引き戸です。

内装については、地松の構造材を表しで使っている以上,他に目視される木材が適当なのもバランスが悪いので、最も面積が大きくなる和室と2階の天井は、当時出て間もない国産材構造用合板に杉突板を貼った「すぎ家族」(熊本の製造会社)を使っていただきました。あくまで個人的な感想ですが、通常の合板のようにカツラ剥きされた木目の表しは見ていると、なんともサイケデリックな気分になりますが、「すぎ家族」は杉板の本来の木目の良さを感じることができます。これも納品時には、きっとご無理をお願いしたことでしょう。※写真:すぎ家族と地松が組み合わされた天井。

我が家は外観だけでなく内部も山小屋風で、そのうち功罪をまとめることになると思いますが、設計当初から薪ストーブをメイン暖房とすることを環境原理主義的に思想していたため、部屋の仕切りがほとんどありません。したがって2階があるのですが、まさにロフト状態です。その2階のフローリングは、1階のアカマツではなく杉にしました。これも広島県のメーカーからのものですが、杉のフローリングの良さは、何よりその柔らかな温かみ。反面、傷がつきやすいのですが,それを超える快適さがあります。

家に入ると一番目を引くのは、キッチンリビングの間にある大きなカウンターテーブルです。これは家を建てる前から工務店さんに探してもらっていた地元産白樫の古い板材を天板に使用したもので、近くの家具職人さん、五十六製作所(https://www.instagram.com/isorokfabrik/)に特注・設置してもらったものです。料理好きで、今はコロナ禍でできなくなりましたが、仲間に集まってもらって美味しい楽しい時間を過ごすのが大好きな我が家。その起点となるカウンターテーブルにも納得がいく木づかいをしたい、という思いからです。天板だった板の大きさからして、おそらく数百年生のカシですから代々末長く使っていきたいです。※写真:カウンターテーブルの天板に使った白樫の原木。

最後に、これだけ「こだわって」特殊な木づかいをしているのだから、どれだけのコストがかかったのか気になる方も多いでしょう。前々回では住宅の建設費に占める「木材」費の割合は10〜20%と述べました。我が家の場合は、設計上の費目である「木工事」として考えると手間が掛かってしまう分、どうしても高くついてしまいましたが、その内訳を分解して単純に「木材」の材料費だけで計算すると、約15%という結果になりました。ご参考になれば幸いです。

こうしたコストは、考えようによっては、身近な木で作られた製品を使うことで周辺の素材生産・木材加工業者さんへ、その施工の手間への対価を惜しまないことで建築に直接関わる方々へ、それぞれのルートで還元されたものとも言えます。もっと大袈裟には、家づくりと木づかいによって地域の環境や経済に少しでも貢献できた、という社会的意義もあると信じています。

さて、ここまでしばらく家づくりの話題でしたが、次回からは僕が最も優先的にしたかったこと、薪割りと薪ストーブのお話に移りたいと思います。ここではこだわりを超えて先述のとおり、ある意味偏った理想論が先行し、実践もしはじめるのですが、現代的な里山暮らしの現実が立ちはだかります。どうぞ、ご期待ください。

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