【実践!里山生活術 】
Vol.12 地松をめぐる思いと出会い

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

“地松”を家づくりの中心に採用する、というのは、なんだか特殊なこだわりのように受け止められてしまいそうですが、実はマツは日本の伝統的な建築用材のひとつなんですよ。もちろん現在では、スギやヒノキのように人工的に広く植林・育成され、用材として多く流通していますが、そうした流通のなかった時代に建てられた古民家には、周辺の里山に自生する多様な樹種が、それぞれの用途に適した方法で使用されていました。

以前このコラムでも触れましたが、西日本の里山ではアカマツが多く自生していたのでマツが用材、特に構造材に使われることが多かったようです。2年前に訪問した国宝姫路城内でも、マツの曲がり横架材がたくさん使われていました。ちなみに東日本や北日本では、当然ながら植生が大きく異なるので、使われる樹種も違ってきます。例えば、福島県の会津地方では、スギ以外にも周辺の里山にあるキタゴヨウ(マツ科)やブナなどの広葉樹も多く使われてきたことが私の大学の研究室の先輩である信州大学の井田先生の研究で明らかにされています(井田編著・2020)。※写真:姫路城内部のマツ材。

こうしたことから、自分が家を建てる際には、なるべく周辺の里山に自生する樹種の木材、特にアカマツを活用したいと考えていたのです。ただ、実際にその場面になって困ったのは材料探しです。アカマツ材は、工作などに使う板材や角材は近くのホームセンターにも売られてますが、柱や梁桁などの構造材をどうやって調達すればいいのでしょうか。実際、アカマツの原木(丸太)が木材市場にも出ているのは知っていましたが、家を建てる場面で使うような用材を製材・乾燥・加工までしている業者さんを当時は知らなかったのです。

そこで、家を建ててもらう地元の有限会社八重製材所さんにお聞きしたり、当時は特に業務上や研究上での繋がりがなかったので、ネットで検索などしながら自分で探しているうちに、隣の島根県ではありますが、マツ専門で伐採から加工まで一貫して行っている業者さんが見つかりました。それが前回ご紹介した島根県大田市の有限会社石東林業商会さんです。思い切ってダイレクトメールで思いを送ってみたところ、工場や施工先の見学を快諾いただきました。※写真:石東林業商会の乾燥施設の土場)。

さっそく2012年3月にアポを取って大田に伺うと、応対していただいたのは私たちよりも歳下の社長さんでした。製材部門のある事務所で概要をお聞きしたあと、近くの工業団地にある大きな乾燥・加工施設にご案内いただき、お聞きしたいことをたくさん教えていただきました。土場には直径50センチメートル超えの軽く100年生以上のアカマツの原木が並んでいて、それらが我が町の芸北地区産だそうです。「まさに地松!」ですが、マツ枯れが広がりつつある地域に、こんな立派で真っ直ぐなアカマツがまだ残っていることに感動しました。

土場には、一次製材し天日乾燥中の材料もたくさん積まれてありました。それらは、製材過程で出る端材で焚いた温水を循環させる機械で乾燥され、さらに倉庫内で養生されたあと、仕上げ加工を経て最終製品になるそうです。こうした独自のノウハウで製品を品質管理しながらも、資源を無駄なく活用しながら生産されている姿勢に強く共感を覚えました。※写真3:マツのヤニ壺。

ところで、マツ材特有の難点として樹脂(ヤニ)があります。柱や梁桁など、大きな材料になると「ヤニ壺」と言われる数年以上にわたって樹脂が出続ける箇所が含まれることがあります。そのチェックを材料一本、一本まで入念にされているとのこと。また、大きな節(材の中にある枝の名残)もマツ材の魅力ですが、フローリング材などで特にその節割れが欠点になることもあり、クレームになるそうです。我が家はまったく問題ないどころか、そういう材を使いたいので,その場で「節あり」をリクエストしたら、社長さんにとても喜ばれました(笑)。※写真4:マツフローリングの施工例)

その後、フローリング施工された近くの旅館や、社長さんの親族の民家も見せていただきました。実際に素足で歩いてみると、よくあるスギとは違って表面がやや硬く、冷んやりする感触がありました。逆に傷がつきにくい利点もあり、最近人気のナラやクリのような冷たさはありません。そして、一番の魅力は経年により、色や木目が変化することです。古い木造校舎や寺院などで廊下の床が飴色に輝いているのを見られるのも、マツ材の樹脂の効果なのです。

終始気さくにご対応いただいた社長さん、そして魅力が深まった地松材との出会いに感動・興奮しつつ、この出会いを大切にしたいという思いが強くなりました。帰ってから工務店さんにもその思いをお伝えし、具体的に材料調達のやりとりも含めて検討してくださることになりました。設計や施工で慣れない材料を扱うのは、本当は嫌がられることも多いかもしれませんが、八重製材所さんのスタッフはむしろ楽しんでいただけるような雰囲気があって嬉しかったです。実際には、材料のプレカットの段取りなどで、いろいろご苦労いただいたようですが。

このように、家づくりの木づかいの過程でとても魅力的な出会いがあり、関係する方々がいろいろな課題にチャレンジしてくださったことで、私たちの思いを実現できたことに改めて感謝しています。次回は、そのほかの材料も含めた家全体の木づかいのこだわりについて、皆さんの気になるコスト面もできる範囲で公開しながら、ご紹介したいと思います。

◎引用文献

井田秀行編著(2020)「只見の古民家は何の木でつくられているのか?.只見町ブナセンター」

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