【実践!里山生活術 】
Vol.21 風土を感じる酒肴(2)里山の春の山菜

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

長く厳しい寒さから温かな日差しが感じられるようになった頃、里山に暮らす我々にとって、周囲に芽吹き始めた植物の若緑は何よりも嬉しく感じられる色です。特に山菜と呼ばれる、食することができる野生の植物には格別の思い入れがある人が多いのですが、それは人間の動物としての本能として、冬を乗り越えたという喜びや自然の恵みへの嬉しさから来るものなのかもしれません。

我が家の周りだと裏庭の蕗の薹から始まり、屈、楤の芽、蕨、筍などなど、順番に収穫でき食卓に並びます。ご近所で分け合ったりすることも多く、忙しくて取りに行けそうにない我が家でも地元産をよく分けていただきます。特に筍は誰のものともわからず朝夕気づくと掘れたてが玄関先に並んでいた、ということが時々あります(笑)。

※写真:玄関先に並んだ筍。

では、数多くある山菜の中で、ひとつだけ取り上げるとしたら、私は「バカノメ」を推しましょう。正式名称は「コシアブラ」(ウコギ科)の新芽です。バカとはたいへん失礼な呼称ですが、広島の方では実際そう呼ばれていて、それくらい取っても伐ってもいくらでも生えてくる、という意味だと思われます。

最近は、道の駅やスーパーなどでも人気のようで、ネットでもレシピが多く公開されています。また「アブラ」の名とおり昔は、その実を絞ってか、幹を傷つけて集めた油を濾して漆のように使っていたという説があり、「ゴンゼツ(金漆)」という別名もあります。私も数年前初めてその実を採集できた時に、その油脂分の多さに感動しました。※写真:コシアブラの葉と実。

コシアブラは広島あたりの里山の中でよく見かけますが、多いところは定期的に下刈りがされているような明るいアカマツ林や若い植林地です。成長が早く放っておくと樹高が15メートル以上、幹の直径が胸の高さで30センチメートルを超えるくらいになり、そうなると肝心の新芽には手が届きません。昔はその白っぽい材を薄く削って帽子にしたそうで、30年くらい前までは広島県が全国的にも有数の産地だったそうです。それくらいコシアブラが多かったということですね。※写真:大きくなったコシアブラの立木。

もちろん、すべての山には所有者がいて、無断で採ってはいけませんが、もし自分でコシアブラの新芽を採る機会があれば、気をつけていただきたいのは、同じウコギ科で最もよく似たのがタカノツメという樹木との混同です。唐辛子ではありません。どちらも掌状複葉と言って、開くとコシアブラが5枚、タカノツメは3枚で、ひとつの葉となっており、新芽の状態だと非常によく似ています。どちらも食べられるのですが、タカノツメにはコシアブラのような独特の風味が少なく、やや苦味が強いのです。間違ってタカノツメばかり採集してしまうと、残念な食卓になってしまうかもしれません。

と、コシアブラについては、まだまだ蘊蓄が尽きないけれど、そろそろメインテーマの酒肴です。山菜といえば、天ぷらが最もポピュラーで、そもそも天ぷらにしてしまうとほとんどの草木の新芽は食べることができると思います。我が家でも、もちろん天ぷらで食べることも多いのですが、コシアブラだけは、その独特の風味を味わいたいため、基本はお浸しです。そのまま醤油やポン酢でいただいたり、胡麻和えなんかも最高!おすすめは、その形状を生かすとともに、あえて洋風なアレンジですね。※写真:コシアブラのお浸しと春の旬菜パエリアと合わせるどぶろく。

コシアブラは芽吹いたばかりよりも少し葉柄が伸びたものがいいでしょう。それをさっと茹でてから水に晒して冷やし、水分をとって開いたものを飾り付けるように配置すると他の食材にはない雰囲気を出せ、盛り上がること間違いなし!ちなみに写真はコシアブラとタケノコとアサリの和風パエリアです。実は新婚旅行はバルセロナ滞在だったくらい我が家ではパエリアが好物ですが、そういえば最近作ってないなあ。

そして、合わせるお酒は、お浸しのままならコシアブラの同じ質の軽い苦味があるものはいかがでしょうか。例えば良質のものならば、苦味をほとんど感じない「どぶろく」。写真は、地元大朝で「復活」の福光酒造さんのもので、コシアブラの香味や苦味、濃厚な胡麻ソースと調和する、まさにお米の旨味がピッタリでした。この記事がアップされた時には、コシアブラは既に遅いかもしれませんが、北広島町内の道の駅などで見つけられたら、同時に町内産どぶろくもお買い求めください。そう、北広島町は「どぶろく特区」に指定された地域なんです。

さて、酒肴の連載2回目は、いかがだったでしょうか。今回たまたまコシアブラを取り上げたために、これまでの連載のとおり私の専門領域の蘊蓄に引っ張られた感じになってしまいました。こういう「ちょっとだけタメになる」部分も残していきたいな、それが私の文章のオリジナリティになればいいな、と入力しながら感じたので、このスタイルで続けたいと思います。

次回、6月に入ると実は一番難しい時期なんですが、ちょうど我が家の庭のジューンベリーが実る時期ですし、その恵みをソースで生かした酒肴なんていかがでしょうか。合わせるお酒は…どうぞお楽しみに。

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