【実践!里山生活術 】
Vol.20 風土を感じる酒肴(1)総論

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

これまでは、どちらかというと外向きな私、そして我が家の有り様としての里山暮らしのご紹介でした。今回からは私の個人的な趣味としても里山暮らしの大きな「目的」のひとつになり得る「食」をテーマとしてみたいと思います。もちろん、季節ごとの身近な食材を毎日の食卓で自ら調理していただくというのは、そうした食材との接点が多いことから必然的に里山暮らしの根幹になり得ます。※写真:とある酒蔵近くで蔵人が酒米を育てている田園風景。

そしてリアルな私をご存知の方なら、そのテーマには必ず、お「酒」も付いてくるのを期待されるでしょう。当初からの読者の方ならネズミサシのエピソードからも想像はつくと思いますが、里山暮らしを始めるまでは街呑みが日常でした。お酒、特に日本酒に惹かれ、晩酌での銘柄探索はもちろん、旅行に出かける際には酒蔵に立ち寄るのが趣味です。その酒蔵の人、周りの街並みや風景、当地の酒肴を思い出しながら、また日常で再現していただくのが最高です。

ここで最初だけ、私らしく、ちょっと蘊蓄を絡めます。この執筆時は酔ってません(笑)。日本酒をいただくというのは「生態系サービス」、つまりその土地の自然環境と生物、さらには生物どうしの豊かな関係性から生まれる「恵み」をいただくことです。この概念は、ワインでも使われる「テロワール」とも同義ですが、実際にはそれに関わる「人」、そして「社会」や「歴史・文化」、さらには自分自身のあり方にも、その関係性が及ぶので、私は日本酒や季節の酒肴をいただく時は「風土」(鎌田、2016)をいただくという気持ちで常にいたいと思っています。※写真:浜田での魚釣り。

ということで、この連載のテーマは「風土を感じる酒肴」としてみました。ご紹介する酒肴の食材は、なるべく身近なものを取り上げたいのですが、かといって山間の産物だけとは限りません。意外かもしれませんが、私の暮らす中国山地沿いでは,山や川の幸だけでなく、実は海の幸もむしろ多様に流通しています。なぜなら、瀬戸内海にも日本海にも車で約1時間走れば到達できますから。周りには海釣りが趣味な人もたくさんいますし、我が家も時々海に出かけます。山と海のイイトコドリができる立地なのです!※写真:仮想バル屋号の表札。

ところで、お酒と酒肴があれば、自然に人が集まります。これまでご紹介してきた薪ストーブのある土間は、そうした集まりに使える空間としても最初から位置付けていました。実は仮想的に「bar_83mts」(バル八重三山)という屋号も家の設計時から設定していて、同じ素材で付け替え可能な屋号の表札や、初訪問者に記念品としてお渡しできるオリジナル手ぬぐいまでも友人にお願いして制作し、用意しておりました。そういう影の段取りが好きな人です。※写真:地区の若者仲間が集った我が家土間での宴。

幸い、我が地区には、特に食に関する感度が高い方が多く、特別な食材やお酒が入手できたことなどを契機に、これまで何度も土間で楽しむ会を開催してきました。過去の写真を振り返ると、いま社会人の娘さんが当初は中学生だったり、我が子も赤ちゃんだったり、感慨深い思い出の積み重ねになっています。もちろん、ここ2年ほどは集まることができていませんが、これからもこうした集まりは大切にしていきたいと思っていますし、そのためにも酒肴づくりには日々精進しています。

次回から、タイミングはちょっと遅れるかもしれませんが、この時期の春の里山の山菜などの話題からスタートしていきたいと思っています。とは、いっても素人ですので、調理の手順やお酒の銘柄紹介などはあくまでサラッと触れますので、ご笑覧ください。

■引用文献:鎌田磨人(2016)風土を読み解くツールとしての景観生態学.景観生態学21(1): 57-67

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