【実践!里山生活術 】
Vol.22 風土を感じる酒肴(3)初夏の庭の果実で

【実践!里山生活術 】


里山とは、環境省によれば「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」。日本人の原風景が感じられる北広島町の里山で暮らす“里山コーディネータ”山場淳史さんのコラムです。

里山暮らしをしながら周りの自然の恵みを生かしていただく酒肴は、季節の流れの中で毎年似たような時期にだいたい同じものになります。そのルーティンが当たり前に巡ることが実は、たいへんありがたいことなんだと最近感じるようになりました。

梅雨入りのタイミングによって多少変動するとはいえ、6月に入ると毎年同じように食卓に登場するのは、我が家の庭木に実る果実を使った料理です。この時期はジューンベリー、サンショウの実、ナワシロイチゴ、ブルーベリーの順に熟していきます。10年間この順番自体はほぼ変わることがなかったと思います。
※写真:この時期の子どもたちの朝の日課となるジューンベリーの収穫。

ベリー系の果実は子どもたちに朝収穫してもらったものをそのままヨーグルトにのせていただくのが定番です。ただ、特にジューンベリーはヒヨドリなどの野鳥が熟したタイミングで、集団で食べに来て、最近は数日でほとんどの実が無くなるようになってしまいました。
※写真:ハンバーグのジューンベリーソースかけを中心にワンプレートに。

そこで、あらかじめ多めに収穫しておいて、熟したものはそのまま、やや酸っぱさが残るものは夕食の酒肴に使えるように加工します。いろいろ試してみて、赤ワインも加えて濃厚ながらも甘酸っぱく仕上げ、ハンバーグのソースにするのが子どもたちにも好評です。大人はもちろんワイン、特に微発泡のロゼが合うのではないでしょうか。
※写真3:岡山県新見市のドメーヌ・テッタはワイナリーのカフェもおしゃれです。

一方、サンショウは少し前の筍が出回る頃には若葉(木の芽)を使い、それから1ヶ月くらいで実が膨らみます。緑色の果皮をよく見ると、なるほどミカン科だと納得します。そのまま秋まで放置しても香辛料として使えるので、収穫は必要な量だけにします。実際、あまりに多いと果実と花序を選別する作業がたいへんなのです。

選別した果実を使った酒肴は「ちりめん山椒」です。これも、いろんなタイプを試作してみましたが、最も手軽で使い勝手も良いのは薄味のドライな仕上がりです。山椒と瀬戸内産のジャコ(できればサイズの小さい上干しのもの)を薄い出汁と日本酒で水気がなくなるまで焦げないよう炒ります。白っぽく仕上げるために砂糖や味醂は使いません。
※写真:2022シーズンの自家製ちりめん山椒1stバージョン。

このタイプはそのまま、あるいは冷奴にのせて酒肴になるのはもちろん、炊き込みご飯にしたり卵焼きに入れたりして家族で汎用的に楽しめます。生野菜とサラダにするのもいいですね。合わせるお酒は定番の日本酒ほか、蒸し暑い日なら芋焼酎のロックやソーダ割りも山椒の爽やかすぎる香味に調和します。
※写真:芋だけで醸された鹿児島の国分酒造のその名も「いも麹 芋」。

ちなみにサンショウの木には特別な品種以外は雌雄があり、実が成るのは雌木です。我が家には一本しかサンショウがないので、たぶんどこか近くの雄木の花から受粉できるようミツバチなどの虫さんたちが働いてくれているはずなのです。毎年よく実るので本当に不思議でありがたいことですし、これこそが里山の自然の恵みですよね。

ところで観察会とかでよく聞かれるのは、山の中を歩いていてサンショウとよく似た葉で潰すと同じような香りがするイヌザンショウとの違いです。見分ける時には「トゲ」のつき方に注意してください。サンショウは枝のトゲが対生(互いに向き合っている)しているのに対し、イヌザンショウは互生(互い違い)しています。

独特の芳香もイヌザンショウのほうが弱いです。植物の名前で「イヌ」が頭につくものがいくつかありますよね。それらは有用な植物に似ているけど、役に立たなかったり、劣るものに付けられることが多いです。

(リンク:熊本大学薬学部薬草園植物データベース)

https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003331.php

でも、イヌザンショウは、リンク先のページのとおり古くから漢方として重用されてきました。蒸し暑い森の中で汗をかく作業をしている時、イヌザンショウとはいえ柑橘類の香り成分を嗅ぐと、気分がとてもスッキリしますよ!

最後はまたミニ知識シリーズになってしまいましたね。でも、この「ちょっとだけ役に立つかもしれない」スタイルを続けて、「イヌ」コラムと呼ばれないようにしたいなと思っています。次回はもう梅雨が明けて夏本番、海にも遊びに行くことが多くなる頃でしょうか。豪雨などによる災害がないことを祈っています。

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