【おばDの映像玉手箱 】
Vol.3 消えゆく機材遺産!?

【おばDの映像玉手箱 】


広島・岡山の制作会社やテレビ局のディレクターとして様々な映像制作を経験。フリーランスの映像クリエイター「おばD」こと川内美佳さんが、クリエイティブな日々で見つけた話題を綴ります。

こんにちは、映像クリエイターのおばDです。今回も、まずタイトルコールさせていただきます。彦摩呂さんの「味の玉手箱や〜」の口調で「おばDの、映像玉手箱や〜!」。

よし、毎回これでいこう!

さて、テレビの世界で長年ご飯を食べてきたオバDですが、そんな私もヒシヒシと感じることがございます。それは「テレビの時代は終わった」ということです。2019年3月に、日本で初めてインターネット広告費がテレビ広告費を上回りました(電通発表)。広告っていうのは、主にCMです。民放テレビ局は、NHKと違って受信料を徴収しませんから、スポンサーのCM料が主な収入源になります。まさか、テレビが衰退していく現場に立ち会うことになろうとは!!

私もウン10年生きてきましたが、夢にも思いませんでしたね。現在の若い方は、自分の好きなYouTube番組やTikTokを見ているんでしょうから、「テレビ」について力説されても「ふーん?」て感じだと思いますが…。今回は、衰退していくテレビ業界で、ちょっと昔に一世を風靡した機材のお話です。

みなさん「ノンリニア編集」って聞いたことありますか?無いかな〜。「ノンリニア編集」って言葉の対義語は「リニア編集」になります。前回、私の仕事を紹介した時、撮影した動画を編集するってお話しましたよね?編集は、現在パソコンでするのが当たり前なのですが、かつては、このパソコンでする編集を「ノンリニア編集」と称したのですよ。もう死語として取り扱われているかもしれませんが。そして、上の写真が対義語である「リニア編集」するための機材です。当時は、リニア編集がスタンダードの時代でした。現在、動画はデータですが、昔はテープに映像と音声が記憶されていて、その、テープを切ったりつなげたりする、コントローラーが、上の機材です。

当時の機材の写真を撮るため、その昔在籍していた「株式会社アートテレビ」さんに10年ぶりくらいに足を運んできました。昔はバリバリ使っていた「第1編集室」ですが、今はパソコンで完結するので、ほとんど稼働してないらしいです。ちょっと荒れ果てた雰囲気が、お分かりいただけるんじゃないでしょうか?なんとなく、物悲しさを感じますね。撮影用に、わざわざモニターの電源をつけてもらいました。

画面左側に、でっかいビデオデッキがありますが、上の段に素材(再生)テープを入れ、下の段に収録テープを入れて、机の上のコントローラーで操作して編集します。このテープはSONYの放送用テープで、BETACAM通称「ベーカム」です。iPad miniくらいのデカさがあり、めっちゃ、かさばります。30分くらいしか回らないので、これをケースごと何個も持っていくんですが、テープだけでかなりの重量でした。さらに、テープなので、使っているうちに伸びたり切れたりすることも。10回くらい録画したら終わりで、コスパも悪いこと、この上ないです。

そして、このリニア編集が大変なのが、これ。リニア=直線という意味ですが、直線的にしか編集できないってことから来ているんでしょうか。調べても、由来はよくわかりませんでした⁉

今は、パソコンでタイムラインの画像をあっちにやったり、こっちにやったり、自由自在ですが、当時のリニア編集は、頭から順番に繋いでいくことしかできません。もう一度、上書きすることはできるので、そこに違うカットを入れるくらいは問題ありませんが、頭と中盤を入れ替えようとか、ごっそり数カットを入れ替えようとする場合、一回、収録テープを素材にして、新たに編集し直すという裏技を使います。

しかも、この方法だと、データじゃないので、一回編集するごとに画質が劣化するんですよ。なので、この裏技を発動する場合は、1回までと決まっておりましたが、仕方なく何回か上書きを繰り返してしまった場合、「塗り絵」という秘技?が発動されます。「塗り絵」とは、その劣化した映像の上に、劣化していない映像をもう一度上書きすることです。あちこち劣化してしまった部分を、最後に、再度、素材を出してきて、ひたすらトレースし直すという、地獄のように無駄な作業です。長尺の番組などは、塗り絵専門の編集マンがいたらしいです。

というわけで、編集するときは、頭の中で編集の順番を固めてから編集しないといけなかったんですね。しかし、このリニア編集の前は、フィルムを現像してハサミで切って貼り付ける、というもっと大変な作業だったと、よく先輩から聞きました。ちなみにベーカムは、1980年台初めから、ハイビジョン化の頃まで使われていました。

しかし、いい時代になりました。今は、何回でも試行錯誤して、画像を重ねて、重ねて、かっこよく編集することができるようになりましたから、表現の幅も何倍にも広がりました。下の写真は、現在、テレビ局で放送用に使用されている、XDCAM(SONY製)、Blu-rayと同じ、光ディスクです。

機材は、昔はカメラが1000万円くらいしたり、ベーカムのデッキも1台100万円くらいしたり、とても一般人に手が出るような値段ではありませんでしたが、今では高クオリティの動画制作が、手頃なシステムでできるようになりました。機材やシステムではなく、最後は人間のアイディア勝負になってきましたね。さーて、オバサンの頭でどこまで頑張れるかな〜?

今回は、知ってる人には懐かしい、知らない人にもそれなりな?テレビ業界の機材の歴史についてお話しました。衰退していくテレビ業界の「消えゆく機材遺産」を、みなさんの記憶に残せたなら、幸いです。またお会いしましょう!

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