【広島ものづくり列伝 】
Vol.3 「コロナ対策の新商品を開発」松本金型株式会社・後編

【広島ものづくり列伝 】


古くから全国屈指の「ものづくり地域」として知られている広島県。ほかにはない製品や技術を持つオンリーワン企業、世界でもトップシェアを誇るナンバーワン企業が数多く存在しています。業種や分野の違いはあれども、自分たちの夢に向かって常に挑戦を続けてきた広島のものづくりのゲンバを紹介していきます。

新型コロナウイルスによる予想だにしない事態が世界中に広がった今年、製造業に限らず、様々な業種が試練の時を迎えていることは周知のとおり。リーマンショックを皮切りに幾多のピンチをチャンスに変えてきた松本金型株式会社だが、さすがに今回だけは…と思いきや、コロナの逆風にも屈することなく、また新たな製品を開発し、既に商品化したという。

前・中編に続き、創業者(松本文治社長)の右腕として自社商品の開発から販売までを担当する小田原 進M・M販売事業部部長に話を聞いてみた。

まだまだ先の見えないコロナ禍ですが、松本金型には具体的にどのような影響がありましたか?

これまでご紹介して来た自社開発商品に関して言えば、感染拡大による世間の自粛傾向が強まった4月くらいから6月まで、東急ハンズさんはじめ、ドラッグストアで扱っていただいていた分の売り上げがほとんどストップしてしまいました。巣ごもり需要を反映して生協関連のカタログ販売やインターネット通販は伸びてくれましたが、それ以外の店売りは壊滅状態でしたね。

自粛によって店舗への客足がなければ手の打ちようがありませんね。本業の自動車関連などの金型製作部門への余波は?

主力であるマツダの新しい開発がないので、コロナの影響がなくても金型関連の仕事が減るのは想定内でした。事業全体の発注にコロナが追い打ちをかけたのも事実ですが、もともと社長も今期は自社の新製品の開発に充てようと考えていたんですよ。自社の技術が生かせる何か良いアイテムはないかと模索していたところ、かつて全然売れなかった舌ブラシがコロナの予防で見直されてきたこともあり、同じ作るなら「今の時期に喜ばれるコロナ対策商品が良い」と考えた次第です。

コロナ対策アイテムといえば、マスクなどがすぐに思い浮かびますが、さて何を?

マスクは衣料品なので、我々の技術では手に負えません。考えあぐねていた矢先、医療機関や鉄工所などで利用されるフェイスシールドが足りておらず、用紙をはさむクリアファイルなどで作った代用品を使っているという話を耳にしました。板状プラスチックを成型する透明のパッケージ“ブリスター”を作っている我々とすれば、シールドの部分を加工するのはお手のものですし、既製品にはないアイデアもいろいろと浮かびそうです。思い立ったらすぐ行動するタイプの私は、社長室のドアを叩いて「フェイスシールドを作りましょう」と提案していました。5月頃から開発に着手して8月には試作品(※写真下)を完成していたので、これまでの自社商品に比べたら開発期間はずいぶん短かい気がします。

フェイスシールドならば、これまでのものづくり技術が生かせそうです。開発にあたって工夫されたことは?

コロナ予防アイテムとして注目され始めたフェイスシールドですが、既製品は透明なシールドを額(ひたい)部分に取り付けたスポンジをクッションにして伸縮性のあるベルトで頭に装着するタイプが一般的です。我々、ものづくり屋が既製品と同じものを作っても仕方ないので、まず考えたのがシールドをスポンジやベルトで装着するのではなく、メガネ式のフレームで耳にかけるタイプを採用することでした。これならメガネの上からでも使用できますし、女性は化粧がとれることを気にせずに使えますからね。ブリスターの技術がそのまま生かせる透明シールド部分同様に、フレームのようなパーツを製造するのも十八番ですし!

なるほど。最近は様々な業種がフェイスシールドの商品化に参入しているようですが、他社の製品とはひと味違いそうですね。

メガネフレーム型を採用した以外にも、従来の商品は透明シールド部分が顔よりも大きく、動く時にかさばって邪魔になったことから、シールドの縦横幅を顔の輪郭くらいのジャストサイズにしています。また、女性で気にされる方が多いのですが、フェイスシールドを着用して喋るとどうしてもシールドの口元に唾の飛沫が付着したり、息で白く曇るため、その解消策も工夫してみました。視界を重視した透明クリア素材タイプの他に、顔の表情を隠しきらずに飛沫や曇りを目立たないようにするため、口元部分にすりガラス風の加工でグリーンやブルーの色でデザインを施すタイプを考案したんです。フェイスシールドで口元にデザインを入れたのは、おそらく日本で初めてということで、松本金型オリジナルの「デザインフェースシールド」として商標登録も出願しています。

商品の使い勝手を考慮した細かなアイデアに脱帽です。旬のアイテムだけに今後は販売競争もありそうですが?

フェイスシールドの商品化に乗り出す企業も増えているようですが、我々の強みはこれまでの商品開発で培った販路を既に持っていることですね。いくら良いものを作っても売るところがなければ意味がありません。技術畑出身の私も全国を行脚して販売をイチから勉強したことで、商品開発だけでなくマーケットやお客様のニーズも視野に入れるようになりました。例えば、従来のフェイスシールドは折りたためないのでパッケージが最小でもA4サイズより大きくなってしまいます。陳列するにも場所をとるので販売店が嫌うだろうし、購入した人もかさ張る上にシールド部分が変形してはいけないので鞄に入れられず、持ち帰るのに苦労されたのでは。当社では、そのあたりも考慮して、フレーム部分とロール状にしたシールド部分の組み立て式とし、6㎝×6㎝×16㎝サイズのパッケージにコンパクトに梱包しています。

販路からパッケージまで万全ですね。市場での評判は如何ですか?

対外的には、9月2日~4日に東京ビッグサイトで開催された「第15回国際雑貨エキスポ【夏】」にブース出展した際に新商品としてお披露目しました。このイベントは“生活を彩る雑貨・小物が世界中から出展する商談専門展”として知られるメジャーな見本市です。コロナ禍によって通常開催よりは規模が縮小したといえ、三日間1万6000人超が来場する盛況ぶりで、従来のヘルスケアシリーズと合わせ、新戦力のデザインフェイスシールドをPRするには格好の舞台となりました。人口の多い首都圏では地方よりもフェイスシールドを使用する場面が多いようで、ブースを訪れた全国のバイヤーさんたちにも「既製品は医療用や接客業向けの業務用ばかりで、日常生活で気軽に使えるものがあまりなかった。一般の方を対象に販売するのに最適な商品!」「着用中に飛沫や曇りが目立たないのが画期的だ!」といった嬉しい評価をいただき、今回の出展を機に早速、商談が決まりはじめています。

お披露目と同時に商談が決まるとは素晴らしい。ちなみに生産体制の方は?

おかげさまで、「マツモトキヨシ」、「コカラファイン」、関東地区の「ロフト」さんなどへの納品がスタートしており、目下、大量生産を急いでいるところです。いまのところ、外注分を含め1週間で1万個ペースの製造を目標にしています。もっとも、コロナ禍により品薄になったマスクの需要は高まりましたが、フェイスシールドというアイテム自体がどこまで浸透するのか?は、実際のところ、まだよくわからないので今後は様子をうかがいながら製造ペースを調整していく予定です。

新商品のセールスも加わり、小田原さんはますます忙しくなりそうですね。

販路開拓や実演販売で全国を飛び回るのが私の役目ですが、今年の自粛期間は出張に出かけられず、仕事が進まなくて困っておりました。自粛が解除されてからは「国際雑貨エキスポ」への出展などを皮切りに、ようやく県外への出張解禁となり安心しています。ただ一つ問題なのが、まだコロナの終息が見えていないことから、県外への出張から帰広した際は感染防止のため、会社にも自宅にも直帰せず、1週間は東広島のホテルで滞在することを社長に命じられているんですよ。感染者の多い大都市への出張が大半なので、社員や家族への感染リスクを考えると、ごもっともなのですが、毎回1週間ホテルから1歩も出られず缶詰になるのは流石にしんどいですね。出張に行けないのも困るし、行けたら行けたで1週間の軟禁生活はキツイ。私の場合は、新型コロナウィルスに感染する以前に心を蝕まれています(笑)。

■2008年のリーマンショック、そして今年のコロナ。創業以来培ってきたものづくりの知恵と技術を武器に二つの強大な逆境さえ、新たな飛躍へのステップとしてきた松本金型。社会全体が先行きの見えないいま、職人気質を根幹とする何があろうと揺るがない前向きな歩みは、広島の中小企業に勇気を与える存在になりそうだ。

※今回のロングインタビューで、松本金型のセールスエンジニアとして専門的な技術や材質に至るまで、わかりやすく解説してくれた小田原さん。技術畑のご出身とは思えない明るいキャラクターと軽妙なトークが全国の販売店や展示会で行う実演販売で大人気です。そのパワフルな奮闘ぶりは以下、同社製品の使用説明動画などに収録されていますので、是非ご覧ください!

「くるりん」の使い方説明 https://youtu.be/gM7sH5gNY6M 

「みみごこち」CM www.youtube.com/watch?v=xVDXOEw1LPk 

「やわらかみみごこち」使い方動画 www.youtube.com/watch?v=BSqn8bz7GyI 

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