【広島ものづくり列伝 】
Vol.1 「ピンチこそチャンス!」松本金型株式会社・前編

【広島ものづくり列伝 】


古くから全国屈指の「ものづくり地域」として知られている広島県。ほかにはない製品や技術を持つオンリーワン企業、世界でもトップシェアを誇るナンバーワン企業が数多く存在しています。業種や分野の違いはあれども、自分たちの夢に向かって常に挑戦を続けてきた広島のものづくりのゲンバを紹介していきます。

野山に囲まれ田園風景が広がるのどかな東広島市志和町の一角でプラスチック金型の設計・製作を行っているのが松本金型株式会社。創業以来、自動車のプラスチック部品の金型製作を主業務としてきたが、近年は本業で培った精密で高度な金型技術をベースに開発した新発想のヘルスケア商品が話題を集めている。

商品アイテムは全国のドラックストアで大ヒットした「耳かき」を皮切りに「舌ブラシ」「爪切り」「歯ブラシ」など。国内はもとより海外にも販路を拡大しており、目下コロナ対策に向けての新商品の開発を急いでいるという。

創業者である松本文治社長の右腕として自社商品の開発から販売までを担当する小田原 進M・M販売事業部部長に話を聞いてみた。

―松本金型はどんな会社ですか?

昭和51年、現社長が28歳の時に金型工場として興した会社です。創業以来、技術力が求められる自動車部品のプラスチック射出成形金型を専門としてきました。金型構造および押し出し・抜き取り方法では特許(※特許第4494437号)も取得しています。成形機 30t~650tクラスのプラスチック製品の射出成形金型を試作型から量産型まで設計するほか、金型のコンパクト化といった他社で出来ないとされる製品に対応できるのも弊社の強みです。その技術を活かして現在は自社でヘルスケア商品などの開発・販売に取り組んでいます。

―M・M販売事業部部長を務める小田原さんの社歴やプロフィールは?

昭和35年生まれ、呉市出身です。県立呉工業高等学校電気科を卒業後、電気工として川田鉄工株式会社(現カワダ株式会社)に就職しました。24歳の時、松本金型で働いていた先輩に電気工事のアルバイトを頼まれたのを機にそのまま転職。工場で10年務めた頃、NC工作機械の勉強をしたくなって一度は退社したのですが、社長に「帰って来いよ」と声をかけていただき、45歳で復職しました。出戻りなんです(笑)。もともと技術屋ですが、今は商品の企画、営業、販路開拓まで何でもやっています。

―社長の信頼も厚かったようですね。さて、ヘルスケア商品という自動車部品とは畑違いの分野に進出された切っ掛けは?

2008年(平成20年)に自動車業界を直撃したリーマンショックです。その余波を受け、毎日定時で帰れるくらい仕事が激減しました。コロナ禍の今よりも少ないくらいです。金型の発注がなくなり、打開策を検討していた時に社長から「経営的には厳しいが、時間と労力の余裕だけはある。創業時からの目標としてきた自社製品を開発する、即ちメーカーになるのは今がチャンスだ」と告げられました。

―リーマンショックのピンチをチャンスと捉える前向きな姿勢はたいしたものです。では、自社製品の第1号が耳かきになった理由は?

職人は職人に憧れるというか、その頃の社長の机の前には本人が尊敬する「痛くない注射針」で有名な岡野工業の岡野雅行社長の写真が貼ってありました。東京の小さな金属加工の町工場が技術力で世界に通じる製品を生み出したことに感銘を受けていたのでしょう。岡野社長の写真を眺めながら、「何を作ればよいか?」と思案していた社長が着目したのが研磨用の工具「エアリューター」の先端部品、わかりやすく言えば歯医者さんが歯を削る治療の際に使用するような工具の先端です。ダイヤモンドを散りばめてザラザラにしたエアリューターの研磨部品で耳掃除をすると良い具合に引っ掛かりがあって、耳の穴が痛くなるほどほじくらなくても耳垢がよく採れるんですよ。ちなみに昔から大工さんは釘、金型職人はこの部品を耳かき代わりに使う人が多かったとか。「小田原君、痛くない注射針に負けない、痛くない耳かきを作ろうや!」という一言が開発への狼煙となりました。

―なるほど、ものづくり企業ならではのエピソードですね。「痛くない耳かき」の開発は順調に進みましたか?

金型を作るのに1年くらい費やしました。鉄にダイヤモンドを散りばめたエアリューターのザラザラ感を樹脂で実現するのが非常に難しく試行錯誤の繰り返しです。「痛くない」が大前提ですから、まずはブラシを植えるタイプを金型一体で試作してみると、気持ちは良いものの肝心の耳垢が取れません。あれこれ、何度も工夫をこらしてようやく自社製品第一号として完成したのが「新感触耳かき みみごこち」です。ヘッド部分の樹脂を160本のかぎ状極細ブラシと耳穴の形にフィットしやすいスリット入りの2種類とすることで、汚れの搔きだしやすさ、毛先の柔らかさによる使い心地のソフトさなどを実現することに成功しました。

―金型製作の技術を結集した今までにない耳かきが完成。引く手あまたで、いきなりヒット商品になったのでは。

いえいえ、とんでもない。なんとか商品化には成功したものの、どうやって売れば良いのかがさっぱりわかりません。いきおいのまま、社長と2人で全国展開する有名な小売店に売り込みに出かけたところ「耳かきは月に3本売れればよいくらいの商品。まずは知名度を上げて来てください」と言われてうなだれて帰ってみたり、途方に暮れる日々が続きました。モノを売る仕事など、やったことのない技術畑の人間が行う営業ですから、当前の結果ではありますが…。

―状況を好転させる転機となった出来事が何かありましたか?

何か良い知恵はないものか?と相談した取引銀行に紹介されたのが、広島産業振興機構が主宰する「販売戦略塾」です。ここで本格的な営業や販路開拓に必要なマーケティングの基礎を学び、開発者の私たちが気づかない専門家による商品のブラッシュアップ支援なども受けることが出来ました。中でも私にとって一番大きな収穫となったのは、かつて東証一部上場ギフト商社でカリスマバイヤーと呼ばれ、現在はコンサルタントとして全国区の知名度を持つ大平孝(株式会社GIH取締役会長)さんとご縁ができたことですね。自分の師匠としてずっと指導を仰いでいます。

―「販売戦略塾」で学んだ成果が実を結びましたか?

販売戦略塾を通じて中国新聞や経済誌などのマスメディアに取り上げられたことを機に、嬉しいことに「商品を欲しい」とされる先があらわれました。ただ、その時はブラッシュアップにより本体の軸が折れやすいといった改善点が見つかったほか、まだ販売システムをきちんと整備していないことなどもあったのでお断りする羽目に。改善点を修正したところ地元ドラッグストアの「ウォンツ」さんに取引していただけることになりました。併せて全国誌「日経MJ」にとりあげられるなど、周りの後押しもあって徐々に全国からも問い合わせが増えてきたんです。

―やはりメディアの影響力や宣伝効果は大きい。いよいよ火が付きましたね。

全国に販路を拡大するにあたって、最初は販売代行を依頼し実績に基づいて手数料を渡す、所謂「セールスレップ」スタイルが良いと考え、まずは販売戦略のプロである大平さんに相談してみました。大平さんから返ってきた言葉は「自分で作ったものは、人に任さずに小田原君、あなたが自分で売りなさい!」。結局、営業の“え”の字も知らない私が販売担当を任されることになりました。営業経験はないものの、もともとお調子者で明るい性格(笑)は自覚しておりましたし、技術屋上がりなので客先で商品についてどんな質問をされても答えられるのがよかったみたいです。大平さんに紹介していただいた全国の大手企業を軒並み体当たり営業したところ、3年間で100万本、売り上げ2億円を超える規模を達成することができました。

―大平さんはセールスエンジニアとして活躍できる小田原部長のスキルを見抜いておられたのかも。耳かきに続くヘルスケア商品が生まれた経緯は?

日本全国を飛び回って営業を進めて行くと、問屋さんから「大手と口座を開くためには耳かき1種類ではなく、ほかにも違う商品がないと取引が難しい」とアドバイスされる機会が増えました。そんな矢先、ちょうど大手製薬会社のピップさんから舌ブラシの開発の要求が届いたこともあり、自社でも耳かきの改良版(商品名「悟空の如意棒」)を筆頭に、爪削りや歯ブラシといったヘルスケア新商品の開発に乗り出した次第です。

■多くの企業が大打撃を受けたリーマンショックを新しい挑戦へのステップとし、「自前の技術で開発した製品を持つメーカーとなる」という松本社長の創業以来の夢を見事に実現した松本金型。販売面の課題としてアドバイスされた「みみごこち」に続く、商品開発に奮闘する日々は続く。中編にご期待ください。

●会社概要

会社名松本金型株式会社
本社〒739-0265
東広島市志和町大字冠283
電話 082-433-2848
FAX 082-433-3028
代表取締役松本 文治
資本金1000万円
従業員26人
事業内容プラスチック射出成形用金型の設計・製造 一般日用品雑貨の開発・販売
ホームページhttp://matsumoto-kanagata.net/corporeate/index.html

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