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Vol.9 学生の声を届けたい!「よりよいキャンパスライフを目指す会」代表・原田佳歩さん

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コロナ禍で世界中が混とんとする中、広島を舞台に目標や夢を掲げて頑張っている人がいます。様々な分野で活躍する“時の人”のインタビューをどうぞ!

コロナ禍で世界中が混とんとする中、広島を舞台に目標や夢を掲げて頑張っている人がいます。様々な分野で活躍する“時の人”のインタビューをどうぞ!

広島大学入学後、「気軽に学生同士が交流できる場所があれば…」、「大学の問題に学生が意見を言える場所があれば…」と考えた原田佳歩さん。そんな思いを形にしようと「よりよいキャンパスライフを目指す会」を立ち上げた彼女は、今日まで様々な活動に取り組んできました。心では思っていてもなかなか行動に移せない学生が多い中、なぜ、率先して活動できるのか?彼女の思いや目指す先について聞いてきました。

始めに、簡単な自己紹介をお願いします!

私は現在、広島大学文学部、哲学・思想文化学コースの3年生で中国思想文化学を専攻しています。2004年に岡山県倉敷市で生まれ、高校3年生まで倉敷で過ごしました。小学校までは一般的な6年制の学校に通いましたが、中学校からは中等教育学校という6年制の学校に通いました。イメージとしては中高一貫校という感じで、6年生が高校3年生に当たります。学生時代は通っていた学校が進学校だったこともあり、基本的には勉強漬けの毎日でした。周りの友達も「東大目指すぞ!京大行くぞ!」という人ばかりなので圧もありましたが(笑)、学生生活自体はとても楽しかった。加えて、私の場合は勉強以外にも習い事や部活動が忙しく、小学1年生から通っていた書道教室を始め、近所の音楽大学に吹奏楽を習いに行ったり、学校では囲碁部に所属したりするなど、目が回るような日々を送りました。中でも、一番力を入れていた書道では、中学生時代に県大会で1位を取り、とても嬉しかったことを覚えています。ちなみに、書道は通信教育という形で現在も継続しており、定期的に作品を出品しています。

広島大学を目指した理由は?

端的に言うと、入学当時、中国哲学を専門的に学べる大学が限られていたからです。しかし、そもそも、なぜ中国哲学に興味を持ったのか?という理由については中学生時代まで遡ります。私が中学3年生のとき、クラス内で起きた誰かの些細な不始末を理由に先生が激怒し、連帯責任としてクラス全員が過剰な行動制限を受ける羽目に。「それはおかしい」と思った私がクラスメイトの賛同を集めて先生に抗議しに行くと、先生は考えを改めて謝罪し、処分を撤回しました。このとき、私は初めて「私たちでも声を挙げれば一つの力になるんだ」と思うと同時に、これまで何の疑いもなく先生の言うことを聞いていた私は「先生の言うことは本当に全て正しいのだろうか」、「言われるがまま勉強する意味はあるのだろうか」と疑問を抱くようになります。さらに、「本当の正しさってなんだろう」と考えるようになり、哲学という分野に興味を持つようになりました。その中でも、日本思想との親和性も高い中国哲学の立場から、比較哲学の観点で研究することにより、新しい視点が得られるのではないかと思い、進路を決定しました。

思わぬ体験から進路が決まりましたね。広島大学入学以降について聞かせてください!

入学後すぐに、「ここには学生が声を上げる場所がない」と感じました。大学生活を送る上で「ちょっと不便だな、もう少し改善されたら良いな」という学生に身近に関わる問題を話し合える場所が必要だと。中学生時代に“行動しないと始まらない”という経験をしていた私はさっそく行動を開始。大学でできた友人に声をかけて協力を仰ぎ、「よりよいキャンパスライフを目指す会(※以下、よりキャン)」を立ち上げました。その後、最初の活動として、構内にある図書館の開館時間延長を求める署名活動をスタート。平日は午前8時30分から午後10時頃まで、比較的長時間使用できる図書館ですが、土日や長期休暇中は開館時間が短かったり、そもそも開館していない日があったりと、学生が自習で使いたいときに開いていない場合が多く、不便に感じていましたからね。また、24時間使える自習室が広島市内にある霞キャンパスにはあるのに、東広島キャンパスにはないという格差もあり、是正すべきと考え、対面やオンラインなどで署名活動を行いました。今後、集まった署名を大学側に提出する予定なので、何かしらの改善がなされたらいいなと思っています。このほかにも、広島市内所在の東千田キャンパスに通う法学部の学生は、単位を取得するために1週間に1回程度、東広島キャンパスまで通わなければならず、時間的・体力的な負担に加え、何より往復の交通費が学生にとって大きな負担になっているという問題があったので、アンケートを実施して実態調査を行いました。今後は、今年度から新たに利用が開始されたモビリーデイズ(広島電鉄株式会社が提供する乗車サービス)の影響で、広大生が多く利用するバスの乗車方法が煩雑になっている問題などについても考えていきたいと思います。

学費値上げに関する問題にも取り組まれたとか?

2024年5月に東京大学の学費値上げが報道された際、「もしかしたら広大にも波及するかも…」と思い、東京大学の学生と一緒に何か活動ができないかと考えていました。その矢先、(広島)大学側から値上げを検討しているという発表があり、私も即座に行動を開始。元々は、「よりキャン」として取り組む予定でしたが、ほとんどの学生は政治活動に忌避感や嫌悪感を抱いていると感じていたので、「よりキャン」というよくわからない団体だと警戒されて人が集まらないのでは?という考えから、より人が集まりやすいように“学費値上げ反対”だけに取り組む「学費値上げ阻止緊急アクション」を立ち上げました。結果として、多くの学生から賛同を得られ、現在約70人の学生が学費値上げ反対運動に参加してくれています。私としては、参加者の増加はもちろん嬉しかったのですが、それ以上に、多くの学生が学費値上げを自分ごととして捉えている事実が嬉しかったです。さらに、学費の問題は大学生だけでなく、高校生やその親世代を中心に市民の方々の関心も高く、署名活動を実施した結果、約1万7千筆もの署名が集まりました。後日、集めた署名を学長に提出したところ、翌日の定例記者会見において、学長から「学費値上げについて、具体的に検討していない」という事実上の白紙撤回ともいえる発言が飛び出し、達成感でいっぱいでした。

本当にエネルギッシュに活動されていますね。ただ、何かと苦労も多いのでは?

正直なところ、大変な部分はいろいろあります。中でも、みんなの意見をまとめる作業は一筋縄ではいきません。現在、「よりキャン」では16人のメンバーが「学校生活を良くしたい」という共通認識の下、一緒に活動していますが、元々の考え方やキャラクターは正に十人十色。何か一つの方針を決めるだけでもひと苦労です。例えば署名用紙に記載する文章を検討する際、「より多くの人が賛同しやすい文章にするためにはどうするべきか」ということを考え始めると、意見がとめどなく出てきて、なかなかまとまりません。最終的に一つの案にまとめるころには、みんな疲れ切っているなんて状態もしばしば。ただ、自分としては、遠慮なく意見を出し合っているメンバーの様子が見られ、大変だけど「これこそが学生自治の醍醐味だ!」と感じ、嬉しくも思っています。

率先して活動に取り組めるモチベーションはどこにあるのでしょう?

学費に関して言えば、当事者意識の高さが一番ですね。私自身、両親に援助してもらっている部分はあるし、友達の中には、奨学金を借りながらアルバイトを掛け持ちしてすべて自分で工面している子もいます。こうした現状から考えると、やっぱり学費は安いに越したことはないし、もっと国が支援してほしい。また、「よりキャン」を作るきっかけでも触れましたが、学生が自分たちの身近な問題に関する意思決定にもっと関与できるようになるべきだと思います。図書館、法学部、学費、どの問題も一番の当事者は学生であるにも関わらず、それらの多くは一部の大学関係者のみによって決められているのが現状です。しかし、先述した学費値上げ反対運動の例のように、学生が自ら考え行動し続けることに意味があるのもまた事実。大学生活や社会に関わる問題について、考えて行動すれば少しずつでも現状は変えられるという経験をたくさんの人にしてほしいです。正しい見識を持って行動する人が増えれば、確実に社会変革につながります。そのために今、私ができることは何だろうと常に考えています。常に考えるこの姿勢が、そのままモチベーションに反映されているのかもしれませんね。

今後の目標は?

活動面でいえば、今後は学習会や講演会の開催に注力したいです。多くの学生は、政治に無関心だったり、昔の私みたいに「親や先生が言うことは正しい」という自分の価値観を疑わなかったりして、自分と相対する考えを持つ人と政治的な問題について意見し合うこと自体に嫌悪感を持っていると思っています。しかし、何も社会問題や選挙だけが「政治」なのではなく、人が集まれば「政治」は存在し、学内における諸問題の解決も「政治」と言えます。その意味でも「政治」というのは我々学生にとって身近なものであり、一人一人が多かれ少なかれ考えていくべきものだと思う。普段、当たり前だと思っていることを「本当にそうだろうか?」と考え直して行動を起こせば、何か変わるかもしれない。そんな社会変革につながる“小さな変革”を経験する契機として「今、こんな身近な問題があるけどどう思う?学生生活の中でこれって少し不便だよね」などと、学生同士で話し合える場を提供したい。当然、この際、私たちとしては、差別的な発言をしないとか、偏見を持たないなど、一緒に議論する仲間が不快な思いをしないように配慮する必要があると思っています。いろいろな意見に触れて、考えて行動するという経験を学生のうちにやっておけば、社会人になって選挙で投票に行くようになったり、身近な社会問題に関心を持つようになったりして、若者世代の政治的関心を高め、より多様な運動への参加を促せるのではないでしょうか。

また、個人的な目標としては、中国語圏に留学したいと思っています。中国語をもう少し本格的に勉強したいというのもありますが、中国における近現代史に興味があるので、現地で専門的に学びたいです。留学から戻って卒業した後は、大学院に行って研究職の道に進みたいと考えています!

●プロフィール

「よりよいキャンパスライフを目指す会」代表・原田佳歩

2004年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学文学部、哲学・思想文化学コース、中国思想文化学専攻、3年生。広島大学入学後、友人と「よりよいキャンパスライフを目指す会」を立ち上げ、学生を取り巻く諸問題を捉えて署名活動等を展開。2024年7月には、大学の学費値上げを捉えて署名活動を行い、約1万7000筆の署名を集める。
特技は書道。趣味は中国料理の食べ歩き。近々、韓国語にもチャレンジ予定。

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