【広島人の履歴書】
森本真由美さん 株式会社福々庵・代表取締役《後編》

【広島人の履歴書 】


広島と縁のある各界のオピニオンリーダー自らが語る今日までの足跡。知られざるエピソード満載の履歴書(プロフィール)には、現在を生きるヒントが隠されています。

まんじゅう屋から菓子メーカーへ
時代の変化を追いかける!

「いまの一台の焼き台のままでは製造が間に合わない」。まず頭に浮かんできたのは製造部門の強化を図ることです。併せて、かねてからの目標だった菓子製造業の許可を取得することも。ちょうど、出資を受けられる話も出てきたので、中区光南に約3坪の工場を併設する店舗を開設する運びとなりました。製造拠点を新たに確保することや対外信用面を考慮して2013年7月、ひと足先に組織を法人化。その年の10月にオープンさせたのが2号店となる「福々庵吉島店」です。

法人化と2号店開設を機に、スーパーへの卸売りを積極化したところ、卸先も順調に増え、毎日2500個ペースでまんじゅうを焼く日々がスタート。2014年頃からは、それまで売上の主体だった小売よりも卸売のウエートが高まってきました。あと、お客様のニーズに応じたオリジナルの焼き印を製作し、まんじゅうに焼き付けて提供するサービスを本格的に開始したのもこの頃です。

オリジナルの焼き印が誕生するきっかけとなったのは、西広島店のお得意様だった観音高校のサッカー部が全国大会に出場した時のこと。生徒たちの健闘を願って“必勝”の焼き印を製作し、まんじゅうの皮に焼き付けた「必勝まんじゅう」を商品化すると、大好評だったんです。以来、“ありがとう”“おめでとう”といった言葉や、会社のロゴマーク、経営者直筆の文字、学校の校章など、お客様の用途に合わせた焼き印を押したオリジナルまんじゅうが新しい呼び物になりました。

これまで様々な焼き印を作ってきましたが、入学・卒業シーズンの“桜”など、季節を表すものから、引退した広島カープの黒田博樹投手の代名詞“男気”、西日本豪雨被災地を応援する“がんばろうや”、女性らしさをアピールする流行語“女子力”、コロナの収束を願う妖怪“アマビエ”といった社会の出来事や時代を反映したものまで、どれも思い出深いものばかり。みんなが元気になれる焼き印を押したオリジナルまんじゅうは、わたしたち作る側も楽しいですね。

さて、製造拠点を新設し、スーパーへの卸売りが軌道に乗って来ると、吉島店の工場で大量のまんじゅうを焼きながら、西広島店の面倒もみなければならなくなりました。まだ子育てもあるので、自分の身ひとつで全てを仕切ることに限界を感じるようになってきたし、拠点がふたつあると経費も2倍かかります。何かをおろさないと前に進めない状況に直面し、苦渋の決断ではありましたが、創業店舗である西広島店を閉店することに。

閉店の告知を貼り出したところ、「放課後行くところがなくなる!」という子供たちからの声や「店を続けて欲しい」といった要望が数多く寄せられました。会社として資金繰りや管理面を考えると、いたしかたないのですが、約5年間の営業で地域の皆さんと家族のように仲良くなれた街を後にするのはとても辛かった。「惜しまれながら看板を下ろせたことを必ず次の飛躍に結びつけねば!」と心に誓った次第です。

一方、吉島店ではオープン以来、時代に合わせてネット通販を開始したり、新しい試みにも精力的に取り組んでいました。西広島店の閉店に伴い、作業効率も向上したので知名度を高めて卸先をさらに広げようと、2015年には東京の三軒茶屋で開かれた広島名産を紹介する展示会に初出店。東京のイベントは広島とは来場者の数が違うので驚くことばかり、良い勉強になりました。

また、広島東洋カープとご縁ができたのもこの頃です。球団関係者の方が来店されたのを機に、とんとん拍子に話が進み、マスコットキャラクター“カープ坊や”の焼き印を押した広島東洋カープ公認「カープ福まんじゅう」の販売が決定。「カープファンをつなぐまんじゅうに育てたい」と、大きな期待を込めて売り出したものの、この年はチームが3年ぶりのBクラスに低迷したこともあって、あまり売れませんでした。世の中に浸透したのは翌年、25年ぶりのリーグ優勝を達成した時からです。その後は、カープの快進撃と歩調を合わせ、地元広島のお土産として話題に。今では全国のカープファンから愛される福々庵のヒット商品になってくれました。

こうして吉島店をベースに積極展開に移行し、「これからさらに飛躍を」と思っていた矢先…。なんと工場と店舗に借りていた光南の建物が不動産物件として問題があることが判明したんです。そのまま営業を続けることは難しく、次の移転先を見つけなければならない羽目に。思いもよらなかった事態ですが、ここで歩みを止めるわけにはいきません。小売から卸売業にシフトしたことで、これまで以上に食品衛生面に配慮した工場の必要性を感じていたし、「より安全な商品を提供できる製造機能を備えた拠点を持ちたい」という気持ちが高まりました。すぐさま物件探しに移り、いくつかの候補先の中から白羽の矢を立てたのは、眼前に広がるマリーナからテラスに吹き込む海風が心地良い中区南吉島のボートパーク1階の物件です。

急展開で準備は大変でしたが、2018年3月、今後、必要とされる国際的な衛生基準“HACCP(ハサップ)”仕様の工場を併設した現在の本店が完成。配送機能の合理化や従業員教育の強化にも着手する一方、まんじゅう以外の新商品の開発もスタートしました。スタッフとアイデアを出し合い、何度も試作してみてはラインナップを増やして、今ではアイスキャンデーや、バターケーキなどの焼き菓子も製造しています。中でも思い入れのある商品といえば「シャリもち葛バー」ですね。

この商品が誕生するきっかけとなったのは、南吉島に移った年の7月に西日本を襲った豪雨災害でした。広島県内が甚大な被害に見舞われ、スーパーへの卸売りを広げていたわが社の販路は激減しました。夏場はただでも、まんじゅうの売れ行きが鈍るのに豪雨被害が追い打ちをかけ、「なんとかして売り上げを作らなくては」と焦っていた時のことです。配達で立ち寄った介護施設で、ひとりのおばあちゃんが「暑い時は冷たいものが食べたいけれど、歯が悪くて固いアイスは食べられないの」と嘆いていました。これをヒントにお年寄りが食べられるような冷菓として思いついたのが、葛粉を使用し“半解凍”で食べる新食感アイスです。

早速、商品化を進め、開発したのが、“冷たい氷の食感を楽しめて、柔らかくて溶けにくい不思議なアイス”でした。翌年4月から、その特長を盛り込んだ「シャリもち葛バー」の名称で本格的に販売開始したところ、評判も上々で、2020年には年間20,000本の販売を達成できました。現在は、福まんじゅうと並ぶ看板商品として、〈定番の味〉「サイダー」「ブルーベリー」「マンゴー」「パイン」「ピーチ」や、〈広島県産の味〉「宮島はちみつレモン」「世羅産なし」「庄原産ゆず」など、20種類以上を製造しています。

新拠点の稼働により、扱い商品も増えて卸先も拡大、スーパーでの実演販売も次々入るようになったのは嬉しいことなのですが、パートさん含め15人の体制では作業が追い付きません。わたしも連日「焼く」「販売」「配達」「実演」をこなし、忙しい時は夜勤で工場に焼きに入って、そのまま朝から焼き立ての商品を配達していました。ピークの時などは、早朝から深夜まで走り回って寝る時間は2日に一度取れれば良し、夜中にコンビニの駐車場に停めた車の中で仮眠することもよくありましたね。睡眠不足で毎日眠たいし、暑さ寒さ関係なしで働き詰め、よく身体がもったと思います。

仕事の引き合いが増えても設備投資やランニングコストが嵩んでいたこともあって、経営的には全く余裕はなく、わたしが率先して頑張らないわけにはいきません。そんな中、昨年2月くらいから、じわじわ出始めたのがコロナの影響です。世間の自粛ムードの高まりから特に響いたのがスーパー等での実演販売の減少でした。出雲のスーパーで決まっていた実演販売など、広島を発つ一時間前に中止を伝えられ、先に送っておいた荷物だけを取りに向かったことも。この時はスタッフと号泣しましたよ。一時は実演の売上げが半分となり、死活問題だと悩みましたが、ここにきて感染拡大が落ち着き、緊急事態宣言も解除されて、少しずつ実演販売を再開できる状況になってきたのでひと安心しています。気合を入れて、取り戻していかなくちゃ。

今日に至るまでの道のりを改めて振り返ってみると、一難去ってまた一難、大変なことの連続でした。ただ、全ての経験がこれからの糧となるので後悔はありません。昔から自分の信条としているのは「時代の変化を追いかけること」。スーパーの実演販売然り、わたしの場合はいつも現場に入っているからお客様のニーズを直接肌で感じことができる。世間の生の声やご要望を自ら聞いて、それを商いに反映できれば、みんなが笑顔になれると思うんです。コロナの収束には、もう少し時間がかかりそうですが、時代の変化に即応しながら常に前を見据えて進んでいきたいですね。

最後に、わたしが今日まで頑張って来られた原動力と言える3人の子供たちについてお伝えします。中学時代から手が付けられないほど荒れて非行の道に走った長男ですが、高校卒業後は専門学校で自動車整備の技術を身に付け、カーディーラーの整備部門に就職してくれました。自らの意志で進んだ道とあり、今では一級整備士ほか、メカニックに必要な資格免許をほとんど取得し、自動車整備のプロとして忙しい日々を送っています。嬉しいことに21歳で家庭を持ち、3児のパパにもなりました。

また、一時は気難しい時期もあった長女は大学卒業後、大手ホテルチェーンに就職してブライダル部門に従事しました。時間が空けば、わたしの仕事も手伝ってくれていましたが、昨年、自分の夢を実現したいと、ファッション関係で脚光を浴びるベンチャー企業に転職。現在は新しいプロジェクトの立ち上げで奮闘しているようです。そして上の2人と14歳も離れて生まれ、幼い頃は身体が弱くて心配していた次女もいまや高校1年生。今年のわたしの誕生日には珈琲が大好きで掃除好きな母親のために珈琲カップとスポンジをプレゼントしてくれる優しい子に育ってくれました。

朝から晩まで仕事にかかりっきりで手がかけてやれない分、母親として“心”はかけてきましたが、子供たちが無事に成長できたのは周りの方々にたくさん支えていただけたおかげです。無茶をしがちなわたしをサポートしてくれる従業員のみんな、応援してくださる取引先や地域の方々、いつも福々庵の商品をお求め下さるお客さま…ご縁をいただいたすべての人に感謝の気持ちでいっぱいです。みなさんに“福”をお届けするためにも、まだまだわたしは走り続けます。

《森本真由美 PROFILE》

〇株式会社福々庵 代表取締役 
〇一般社団法人クチコミュニティマーケティング協会認定講師
〇公益財団法人ひろしま産業振興機構創業サポーター
〇広島県女性活躍推進アドバイザー
〇日本ラッピング協会講師資格★販売士取得★雇用型創業支援活動

【株式会社 福々庵】
本社:〒730-0826 広島市中区南吉島1-1
電話:(082)249-9812  FAX:(082)249-9813

■福々庵HP https://fukufukuan.jp
■福々庵フェイスブック ページ
 https://www.facebook.com/fukufukuan
■森本真由美フェイスブックページ
 http://facebook.com/mayumi.morimoto2
■お問い合わせ morimoto@fukufukuan.jp

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