今では、映画館といえば、シネマコンプレックス(略称:シネコン:ひとつの施設に複数のスクリーンが設置されている複合型映画館)が当たり前のようですが、シネコンがまだ広島にない頃、相生通りの立町電停前のビル最上階に「広島朝日会館」という大きな映画館があったのをご存知ですか?
広島朝日会館は1958年12月に開館、2003年3月まで約45年間、中国・四国地方では最大規模の座席数800席超を有する洋画封切館として、広島の映画ファンに親しまれてきました。私は1988年から1994年までの6年間、運営母体の社員として、この劇場で映画興行の仕事に携わりました。大阪への転勤を経て、現在は東京に勤務しておりますが、広島在任中の若き日を振り返りながら、当時上映した映画の思い出を回想したいと思います。
当時、広島ではシネコンもなく、観客席は全て自由席で入れ替えなし。今では考えられませんが、洋画系のロードショー館も基本的に2本立て上映が通常とされ、1本がメーン、もう1本が併映という感じでした。
多くの映画を上映した中で私の思い出に残る1本が「ゴースト ニューヨークの幻」。1990年秋に日本で公開された作品で、出演はパトリック・スウェイジ、デミ・ムーア、ウーピー・ゴールドバーグほか。ロマンス、コメディ、ファンタジー、ホラーなど、いくつもの要素が盛り込まれた珠玉のラブストーリーです。
広島朝日会館では、当時人気絶頂のエディ・マーフィー主演の「48時間PART2 /帰ってきたふたり」の併映作品の位置づけで、地元での映画宣伝も「48時間」をメーンに展開予定でしたが…。東京、大阪の5、6番手の映画館で公開されたこの作品は、内容の良さも相まって、口コミから徐々に動員数を伸ばし、“ゴースト現象”を巻き起こすほどの大ヒットを記録。ゴーストのタイトル通り、大化けしたわけです(笑)。
これを受けて広島公開時には、急遽「ゴースト」をメーンに据えての上映体制に変更したところ、東京、大阪での人気が拍車をかけ、広島地区でも連日の超満員。当初は、まだ無名の俳優が主演するノー・スタームービーだったことや、「ゴースト ニューヨークの幻」というタイトルでは内容がよくわからないので、興行関係者の評価も高いものではありませんでした。
まさにこのヒットは、女性のお客様による口コミによるヒットといっても過言でなく、興行ビジネスに携わる者として大変勉強になったと同時に「映画や演劇は女性に支えられているな」と強く感じた記憶があります。
愛する人が殺されて、ゴーストとなって恋人の前に戻ってくるが、インチキ霊媒師の身体を借りて、自分の存在を伝えようとするが、なかなか信じてもらえない。しかし、二人だけしか知らない合言葉で気づいてもらうシーンで、観客の皆さんが一斉にハンカチを取り出して涙を拭う姿は圧巻でした。
もう30年前の映画になりますが、コロナ禍のステイホームで愛する人への思いやりや、家族の大切さを再認識してしまう今の時期にはお薦めの映画だと思います。DVDでご覧になるときは、ハンカチを忘れずに!
※映画「ゴースト ニューヨークの幻」(原題:GOST)1990年日本公開
出演:パトリック・スウェイジ、デミ・ムーア、ウーピー・ゴールドバーグ
監督:ジュリー・ザッカー
主題歌:「アンチェイド・メロディ」(ライシャス・ブラザース)