File.4 兼森雅弘さん 株式会社カネヒロデンシ 代表取締役会長 《後編》

新型コロナから鳥獣被害対策まで
LEDの可能性を追求して製品開発

創業時、当社の看板製品だった業務用空調スィッチは、建築業界がホテルを1棟建設すると何十個も何百個も使うため、たくさんの材料を用意しなければなりません。開業した年の冬に取引先に誘われて福岡で開かれた部品メーカーの商談会に出向くと、出展していた韓国のメーカーの方に「海外との貿易は意外と簡単ですよ」と教えられたんです。海外から安く部品や資材を調達できれば有難いので、そのアドバイスを機に海外から輸入するようになりました。

自分でも現地に行ってみたくなって、まずは韓国の展示会に足を運んでみると、上海のSUNPU社というLEDメーカーを紹介され、商談したところ「まだ日本とは取引をしていない」とのこと。SUNPU社は、のちに上場して大きくなりましたが、当時はまだ小さい会社だったので日本の総代理店にしていただけました。製品の完成度やイメージを踏まえて、当社の部品の主力が日亜化学製になったいまでも、SUNPU社とは付き合いがありますよ。

ちなみにLEDとは、Light(光る)、Emitting(出す)、Diode(ダイオード)のそれぞれの頭文字を略したもの。電気を流すと発光する半導体の一種で、発光ダイオードとも呼ばれています。「省エネ性能」「高い発光効率」「長寿命」「赤外線・紫外線をほとんど含まない」「調色・調光・点滅が自在」「防水構造も容易」といった特性を生かして、地球環境保護の観点から一般用照明として使用できる照明器具の開発が進められ、製品化されてきました。

当時、日本にもLEDメーカーは既にいくつかありましたが、大手企業ならまだしもウチのような小さな会社は価格やロット数の面で足元を見られて、取引するにはハードルが高かったんです。海外では手形取引がないので会社の規模に関係なく平等に扱ってもらえるので助かりましたね。早速、空調スィッチの中にひとつだけ組み込まれていたLEDを使って「何か作ってみよう」と考え、白い光を生かして最初に作ったのが白色照明です。いまとなっては照明と言えるものでもありませんが、弊社のLED事業の第一歩となりました。

そんな矢先に起こったのが、2005年に建築業界を揺るがした「姉歯事件」です。耐震構造計算書の偽造が問題となったこの事件が建築基準法改正のきっかけとなり、ホテルなど大型施設の新築がストップしてしまいました。創業以来、主力としてきた業務用空調スィッチを販売する先がなくなったことに伴い、わたしも軌道修正を余儀なくされることに。仕方なく当面の需要が見込めない空調スィッチ事業からの撤退を決め、LED事業に特化する方針にシフトした次第です。大手メーカーが一般照明にウエートを置く中、LEDに将来性を感じてはいましたが、それまでスィッチの中にある部品のひとつとしてしか認識していなかったLEDが、まさか開業して2~3年で自分の本業になるとは思いませんでしたね。

こうしてLED製品の自社開発・販売が本格的にスタート。2006年の「LEDビジュアルサインボード」を手始めに「LEDチューブタイプ」などの製品化に続き、2007年から「蛍光灯型・電球型タイプのLED照明器具」の販売を開始しました。LED照明製品の第1号になったのは「直管型蛍光灯」です。当社のシンボルとしていまでも事務所の天井の下に据え付けていますが、LEDの寿命は24時間点けっぱなしで普通4年半くらいなのに、いろいろ工夫を施したおかげで13~14年経ってもまだしっかり点灯しています。一方、組織の方も業務の拡張に伴い、個人会社から有限、株式会社へと段階的に組織を改組し、従業員も徐々に増やしていきました。

印刷業界大手の大日本印刷さんとの取引も始まり、「さらに弾みを!」と意気込んでいたところ、まさに“好事魔多し”。時の政権となった民主党の政策に足をすくわれました。政府が財源不足の中で“子ども手当”などの制度を打ち出したため、既に決まっていた事業予算の削減が始まったんです。この時、当社では防衛省への直管型蛍光灯の大口納入が入札直前でなくなりました。既に部品や材料も調達していたのですが、予算の削減により取引が全部破綻してしまいました。防衛省とのビジネスで一気に波に乗れる手応えを感じていたのに梯子を外された格好です。

当時、大量に調達した材料は、いまもまだ倉庫に残っているくらいで、経営的にも大きなダメージを受けました。相当苦しかったのですが、わたしの人生ではよくあることなので新しい製品を作って、なんとかしのぎましたよ。何はともあれLEDについては自分に設計のベースがあるので応用はできましたから。「これとこれを足したらどうなるのだろう」とか、「この先どっちに転ぶかわからないからやってみよう」とか、考え始めるとアイデアはいくらでも浮かんでくるんです。特許も数えきれないほど取得しましたが、特許は中小企業が大企業や海外勢に対して値段で勝てないから必要とされるものであって、設計者がわたしでフットワークの軽い当社の場合は値段でも勝てる自信があるから、どうしても譲れない技術のほかは不要なのかもしれません。

2011年、東日本大震災で生じた計画停電により、省エネできるLED照明に世間の注目が集まり、LEDは人々の暮らしに急速に浸透しました。業界も成熟する中、「LEDにはまだ大きな可能性があり、開拓の余地が多く残されている」と考えるわたしが近年、力を入れているのが「LEDウイルス不活化灯」です。もともとは、印刷用インクの溶剤を好んで飛来する虫を防ぐため、新しい捕虫器の開発を進めていた大日本印刷さんから「LED照明を活用した捕虫器を量産化して欲しい」というオファーをいただいたのがきっかけです。2018年の西日本豪雨によって三原市久井の本社工場が罹災して、売上げが落ちていた当社としては、ちょうどコロナが台頭してきたこともあり、何か新しい製品を開発しなければと思っていたところでした。この捕虫器の技術を応用して開発したのが当社の「LEDウイルス不活化灯」なんですよ。

新型コロナウイルスやインフルエンザなどのウイルスは太陽光の紫外線に弱く、屋外の直射日光の下では短時間で不活化しますが、屋内では長時間不活化しません。この太陽光の紫外線「UV」にはA、B、Cがあります。従来の紫外線を利用した消毒には、強い殺菌効果を持つUVCが使われていたので、常時使用すると人体への危険性が高く、網膜や皮膚を痛めるといったデメリットがあり、注意が必要でした。わたしが着目したのは太陽光に含まれる紫外線のほとんどであるUVAです。LEDの明かりとともにUVCより微弱なUVA紫外線を常時照射することで、ウイルスの感染性を抑えられるかもしれない、と考えました。UVA紫外線ならば、1日8時間使用しても屋外に30分いるのと同じ程度でほとんど日焼けの心配がありませんし、刺激の弱い緩やかな除菌方法なので、太陽光の当たらない夜間でも効力を発揮しますからね。

早速、UVAを使用したLEDウイルス不活化灯の開発に取り掛かったところ、2020年4月にわたしの同級生と仕事をしていた女優の岡江久美子さんがコロナで亡くなられたというニュースが飛び込んできました。自分とは直接、面識はないけれど、同い年と聞いていたので「明日は我が身かも…」との思いが強まり、新型コロナの恐ろしさを再認識した次第です。岡江さんの訃報を聞いたのちの5月連休は、初号機の試作や実験はもとよりカタログの整理に至るまで、ひとりで仕事に没頭しましたよ。

その後、米国の疾病対策センターが発表したウイルスの不活化検査の報告結果も踏まえたシュミレーションを経て、ウイルスを不活化するLED灯の製品化に成功。最初にコロナ専用病棟を持つ福岡の病院に設置していただきました。現在は、「LEDウイルス不活化灯シリーズ」のラインナップとして室内、廊下など、施設用の「投光器」、出入口用の「入口灯」、卓上、受付、リビングやトイレに設置する「ドーム型卓上灯」、個人用の「スティック型卓上灯」などを揃えています。

2021年7月には、厚生労働省認定の「バイオメディカルサイエンス研究会」によって当社の製品の抗ウイルス効果が証明されました。検査結果の一例をあげれば、卓上用の製品UVBOX365BDならば、6畳くらいの部屋を1時間で50%程度ウイルスを不活化できることや、アンモニアや、魚の生臭さの主成分であるトリメチルアミンに対しての脱臭効果があることも認められたんです。権威ある研究機関の検査で製品の効果が実際の数値にも表れ、確たる証拠を得たことはメーカーとして大きな自信になりました。目下、各種交通機関、ホテル、銀行、パチンコ店、温浴施設など、様々な業界で販路の開拓を進めています。

考えてみると、兄2人が流行病とされた黄疸により生まれて1週間で亡くなり、わたしも同じ黄疸になりましたが、なんとか生き残りました。黄疸は、いまでは保育器で強い光を数時間当てる光線療法で治癒できる病気になっており、死亡する子供は激減しています。わたしは7月28日生まれなので、夏の強い日差しのおかげで生き残れたようです。これは、いま自分が取り組んでいる紫外線につながりますね。知らず知らずのうちに紫外線を人のために役立てるよう、導かれたのかもしれません。

LEDの秘められた力を信じる者として、ウイルス不活化灯と並行して3年前から注力しているのが「鳥獣対策灯」の開発です。これは、農作物へのイノシシ被害が多発する山口県の農林対策課の方から「何か対策ができないか」との相談を受けたことがきっかけでした。鳥獣撃退・作物盗難防止用「大型センサーライト」と銘打ち、開発した製品は、GPS(全地球測位システム)による二つのセンサーによって夜間に鳥獣や盗難者が接近すると、まぶしくて強力な光を浴びせ、進入路からの侵入を防ぐ仕組みです。光度はサッカー場並みの明るさの28,000cd、耐衝撃材使用による堅牢構造、設置も簡単で従来の箱罠やくくり罠への誘導も行える点―などを特長としています。

ただ、捕虫器の開発を行ってきたわたしとすれば、虫にしても鳥獣にしても、来てくれたら困るものは“来ないようにする”ことと、“捕まえる”ことの両方を成し遂げなければ意味がない気がします。イノシシなどの害獣はセンサーライトによって来ないようにはできますが、個体数は減らないので今度は捕まえなくてはいけません。周防大島の町長さんから「捕獲して減らす方もなんとかなりませんか?」と依頼されたこともあり、作ってみようと考えたのがイノシシを呼び寄せるための餌でした。

種類が近い豚の配合飼料をはじめ、イノシシの好物を調べてみると、虫を好むことが分かりました。捕虫器で虫を集めるのは得意ですから、虫を配合して試行錯誤してみるとイノシシが好む味の飼料を完成できたんです。製品化してセンサーライトと併せて販売していますが、この鳥獣対策シリーズには、まだその先にも実現したい夢があります。ここ数年、全国の市町村で増え続けるイノシシを効率的に捕獲すれば、ジビエとして活用できますからね。畑を荒らす害獣を食材に転じさせることで、地域に新たな産業が生まれるはずです。当社の製品がその一助になれば幸いですね。

わたしは、人から開発の依頼ごとがあると断ることができずに、つい「何かを回答しないといけない」と思ってしまいます。依頼された案件に対して、開発者や設計者が最初から100%のクオリティーのものを作ろうとすると時間がかかっていまいますが、わたしの場合はいつも「6割できればOK。ひとまず一度出してみて、後の4割は様子を見ながら直していけばよい」と認識しています。少々の失敗を恐れず、それを糧にしてさらに改善することを実践してきたおかげで、これまで当社で開発した製品も常に改良を重ねて、より優れたものに進化しています。

酒はたしなむ程度だし、タバコも吸わない。余暇を楽しむ趣味でも持とうと、魚釣り、スキー、カメラ…いろいろ首を突っ込んでみても、ひと通り道具を揃えて2~3回トライしたら、すぐに飽きてしまう。振り返ってみると、大雑把で飽き症のわたしが今日まで唯一、しぶとく続けて来られたのは仕事だけかもしれません。令和に年号が変わり、刻々と流れる時代の中で、長い間LEDの可能性に向き合ってきた経験を活かし、これからも社会に貢献できる有意義な製品を生み出していきたいですね。

《兼森雅弘(かねもりよしひろ) PROFILE》

1956年7月28日生まれ。広島県三原市出身。2003年5月、電子機器の開発を目的として個人会社設立。2004年5月、事業拡張に伴い法人組織に変更、有限会社カネヒロデンシ設立。2006年12月、業務拡大により現在の株式会社カネヒロデンシに組織変更。2011年12月、関連会社I-Light株式会社設立。

【会社概要】

社 名 株式会社 カネヒロデンシ
代表者 代表取締役 会長 兼森 雅弘
代表取締役 社長 竹田 昭典
資本金 7,000万円
事業内容LED照明機器の開発・製造・販売 、LED製品等のレンタル、
電子機器の開発・製造・販売、電機計装工事
本 社 〒722-1414 広島県三原市久井町坂井原5805番地1号
TEL 0847-32-6248  FAX 0847-32-8180
事業所 ■九州営業所
〒815-0074 福岡市南区寺塚1丁目6-5 パロマヴィラ寺塚205号
TEL 092-409-7305  FAX 092-409-7605
■三原経理オフィス
〒723-0011 広島県三原市東町1丁目4-1 
TEL 0848-62-0843  FAX 0848-64-7944
関連会社 I-Light株式会社 上海広金電子貿易有限公司
SIアグリテック株式会社

■カネヒロデンシ ホームページ
http://kanehirodenshi.co.jp/
■カネヒロデンシ フェイスブックページ
https://www.facebook.com/kanehirodenshi.co.jp/
■I-Light 株式会社 ホームページ
http://www.ilight-agg.co.jp/

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