File.1 森本真由美さん 株式会社福々庵・代表取締役《前編》

離婚を経て、シングルマザーに。
1個50円の手焼きまんじゅうで起業!

まんじゅうの焼きあがる甘くて香ばしい匂いに包まれながら1日のスケジュールを再確認し、段取りを考える―己斐本町で7坪の小さなおまんじゅう屋さんを立ち上げて以来10年以上続く、わたしの朝のルーティンです。屋号に名付けた出会う人みんなに“福”をお届けするためにも、まだまだやってみたいこと、工夫してみたいことばかり。目指す先は遥かに遠く、道半ばではありますが、なぜ自分が菓子製造販売の仕事に従事しているのか、今日までの道のりをお話しましょう。

わたしが生まれたのは広島市中区吉島。3人年子の長女として妹、弟、両親、祖父母の7人家族で育ちました。父はマツダ、祖父は三菱重工勤務という典型的なサラリーマン一家です。子供の頃は、どこにでもいる明るい女の子で、中学校では吹奏楽、高校では軽音楽部に所属して楽器演奏に親しみました。将来については、「アナウンサーになりたいな」と夢見るくらいで、飛びぬけて目立つこともなく、毎日のほほんと過ごしていましたね。

高校卒業後は、妹が費用のかかる美大を志望していたことなど、家計の事情を考慮したのもありますが、何よりも働いて自立したいという思いが強く、大学に進学せずに就職する道を選びました。二つの職場で経験を積んだのち、20歳の頃、コンビニの「ローソン」に就職し、大手町店に勤務することに。仕事に馴れた頃、ローソン本部で働いていた男性と職場結婚し、23歳で長男、25歳で長女を授かりました。

そしてわたしが27歳の時、主人が会社を退職し、ローソンのフランチャイズとして独立することを決めてきたんです。急な決断に驚きましたが、従わないわけにはいかない。FCの加盟金は高額なので、まずは銀行に融資をお願いするため、かけ回ってみたものの、まだ若い夫婦とあって信用もなく、なかなか色よい返事が帰ってきません。途方に暮れていたところ、わたしの父が「これで借りなさい」と自宅の権利書を携えて訪ねて来てくれました。父の助け舟のおかげでなんとか資金を得て、FC店舗「庚午北店」の開業にこぎつけることができた次第です。

オープン後は来店者も順調に増え、店自体は軌道に乗ったものの、巷でよく言われるように24時間営業のコンビニ経営の忙しさは半端ではありません。昼夜を問わず、夫婦交代で業務に就いていたある日のことです。夜も更けた午後11時頃に疲れた身体を引きずって帰り道を歩いていると、自宅の近所にあったお地蔵さんの前でぽつんと座っていたのは幼い二人のわが子でした。両親共働きで休みもないし、あまりかまってやれないから子供たちも寂しかったのでしょう。わたしの姿を見つけて「おかあさ~ん!」と叫びながら二人が駆け寄ってきた光景は今も忘れることができません。

ローソンとの5年のFC契約が終了した頃、知人から当時のコンビニ業界では商品力が強いとされていたセブンイレブンのFCに「鞍替えしてみてはどうか?」と勧められました。その提案にわたしたち夫婦も同意しましたが、時期のこともあり、すぐに移行するのではなく、まずは準備期間を設けて、二人で働きながら出店場所などを検討することに。結局、出店するまで3年間ほどかかってしまい、その間、わたしは女性視点マーケティング事業を行う会社“ハー・ストーリィ”でお世話になりました。この時、代表取締役の日野佳恵子さんから学んだマーケティングの知識には、自分で会社を経営するようになった現在に至るまで、ずいぶん助けられています。

出店する場所を選んでいたところ、セブンイレブンの関係者から3件の候補地を提案されました。いずれも一長一短ある中で最終的に決めたのは、広島市西区役所前の道路を挟んだ向かいに位置する西区福島町のビルです。コンビニ店舗が排出するごみや掃除の問題など、地域の反対もあって、開店するまで時間もかかりましたが、どうにかこうにか「広島西区役所前店」をオープン。自宅に近かった庚午の店舗に比べ、地域に馴染みもないので当初は戸惑うこともよくありましたね。自分から積極的に挨拶したり、出前をこなしたり、周囲に溶け込もうと励んでいるうちに地域のみなさんにも便利なお店として認めていただけたようです。結果、売上も右肩上がりで、夫婦でコンビニ経営を始めてから最高の売り上げを出すほどにまでになりました。

ところが「好事魔多し」とは、よく言ったもので新店舗の繁盛により、我が家はお金の面での不安こそ解消出来ましたが、忙しさもこれまで以上となり、夫婦のすれ違い生活がどんどん加速していきました。しかも、わたしは新店舗を開業した後、38歳の時に次女を出産していたので育児も加わり、全く気持ちの余裕がありません。

上の2人は中学生になっていましたが、幼い頃からずっと両親が仕事に追われ、他の家庭のように親子のふれあう時間をもてなかったことから、長男に至っては“やんちゃ”ではすまされないレベルの非行に走ってしまいました。長女も年々、気難しくなっており、「お金に困らなくなったところで家族がバラバラになっては元も子もないな」と、家族の大切さを痛感しはじめた頃には時すでに遅し…。開業から5年目を迎え順調に推移する店舗よりも子供たちのことを考えると、このままの状態で進むべきではないと判断し、夫とは協議離婚することになりました。

42歳にして3人の子供を抱えたシングルマザーとなり、新たな生活に踏み出したわたしに迷っている時間はありません。ハー・ストーリィさんから「戻って来ない?」と有難いお誘いもいただきましたが、次女がまだ幼くて病院通いも多かったこともあり、自由が利く仕事を探すことに。いろいろリサーチしてみたところ、目についたのが当時の“たい焼きブーム”を反映して、小判型の生地にこしあんを入れて焼いた「千両まんじゅう」というお菓子のメーカーがFC加盟店を募集している情報です。広島ではあまり見かけないまんじゅうだし、チャンスかも…。早速、貯金をはたいてFC契約を結び、2009年3月9日、西区己斐本町のJR西広島駅裏にあった2階建て7坪の物件を借りて「福々庵 千両まんじゅう西広島店」をオープンしました。

コンビニ経営、離婚、そして3人の子供たちのこと…これまでの歩みを振り返りながら、わたしの思いを込めた店のコンセプトは「デジタルな時代にあって、アナログな人と人との会話があり、核家族化が進む中で子供たちの小腹を満たしてあげられる1個50円のリーズナブルなおまんじゅう屋さん」。看板商品は、甘さ控え目のこしあんを包んだ二口サイズの手焼きまんじゅう「福まんじゅう」です。何しろ“お金なし”、“人脈なし”の船出なので苦労するのは承知の上、まずは口コミでお客さんを集めようと、いろいろやってみましたよ。

駅周辺でチラシを配ったり、近くの商店街やお花見会場へ焼き立てのまんじゅうを行商に歩いたり…。次第に近所の子供たちが店に来てくれるようになり、放課後になると小学生だけでなく、中学生や高校生も加わりました。子供がお小遣いで買えるリーズナブルな価格を設定し、地域の子供たちが足を運びやすく、憩いの場となる「寺子屋」のような店を作りたかった、当初の願いが叶ったわけです。そのうち、だんだん独自の商品展開もやってみたい気持ちが高まったことから、1年後には千両まんじゅうとのFC契約を解消し、「福々庵」単独の屋号で50円の福まんじゅうの他に、350円の定食なども提供する飲食店へ業態変更しました。

こうして、2階の座敷でまんじゅうを食べながら、おしゃべりや宿題に励む子供や、部活帰りに小腹を満たす中・高校生が増え、賑わうようにはなりましたが、商品の単価が低いだけに経営的には厳しい状況が続いていました。売上確保に向けて販路の拡大が急務と考え、「福々庵」の知名度を高めようと広島市内のデパートの催事には毎回出店したものです。催事のブースでは店舗に客足を呼びこむために「プレゼント券」なども配布しましたが、空振りに終わることも少なくありませんでしたね。

一方、地元にお住まいのお母さん方と地域コミュニティーを作ることを目的に2階の座敷でスタートさせたのが「ママと一緒に工作教室」です。未就園児の親子を対象に月に数回、母と子が工作を楽しむ企画で、どんぐりや松ぼっくりなど、身近な材料でクリスマスリースや羽子板、万華鏡などを作っていただきました。教室は回を重ねるごとにお母さんたちの交流の場となって、延べ300人が参加するほど浸透し、店や商品をPRするには打ってつけの機会となりました。

寝る間も惜しんで無我夢中で駆け回ってきたこともあり、3年目を迎える頃には、「福」という縁起の良さも相まって学校の卒業式やバザー、結婚式の引き出物、会社関係のイベントなど、大口注文が入り始めました。一度に500個~800個の注文もあり、従来の1台しかない焼き台では生産が追いつかないことも。今後を見据えた設備やスタッフの課題について頭を悩ます日々が始まりました。以下、《後編》に続く。

《森本真由美 PROFILE》

〇株式会社福々庵 代表取締役 
〇一般社団法人クチコミュニティマーケティング協会認定講師
〇公益財団法人ひろしま産業振興機構創業サポーター
〇広島県女性活躍推進アドバイザー
〇日本ラッピング協会講師資格★販売士取得★雇用型創業支援活動

【株式会社 福々庵】
本社:〒730-0826 広島市中区南吉島1-1
電話:(082)249-9812  FAX:(082)249-9813

■福々庵HP https://fukufukuan.jp
■福々庵フェイスブックページ
 https://www.facebook.com/fukufukuan
■森本真由美フェイスブックページ
 http://facebook.com/mayumi.morimoto2
■お問い合わせ morimoto@fukufukuan.jp

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