ひろしまNPOセンター事務局長・松原裕樹さんに聞く

今年5月、広島で開催される「G7サミット」にあわせ、先進国の首脳だけでなく、市民が主役となる「C7サミット」(C7:Civil 7)も開催されます。史上初の被爆地開催となるG7サミットを地元広島からバックアップする「ひろしまNPOセンター」の事務局長・松原裕樹さんに二つのサミットに期する思いをお聞きしました。

はじめに、松原さんのプロフィールをお願いします。

1982年生まれ、広島出身広島育ちです。20代の頃に、北広島町にある自然学校を運営する環境系のNPOで働き始めました。そこでは、子供から大人まで幅広い年齢層を対象にテレビ番組の「ダッシュ村」のような自然体験や環境学習を行っていました。そのNPOの活動を通じて、ある時、「もっと幅広い分野にわたる地域課題があるのでは?」と感じ、海外のNGOで働いたこともあります。こうした経験を経た後、今の「ひろしまNPOセンター」に就職し、現在は事務局長を務めています。「ひろしまNPOセンター」は、広島県内だけではなく、全国の方々と協力して、環境問題、まちづくり、子育て、福祉、災害支援など様々な分野で各種団体をサポートしています。

松原さんがG7サミットと関わるようになったきっかけは?

G7サミットの広島開催が決定した時、私は、G7サミットの開催地で過去に行われてきた市民の取り組みを調べ始めました。そこで、全国の仲間と「広島でも何か取り組みませんか?」と声をかけ合ったことが、G7サミットとの最初の接点です。

G7サミットに馴染みがなく、難しい印象を抱いています。G7サミットについてお聞かせください。

G7サミットは、カナダ・フランス・ドイツ・イギリス・イタリア・日本・アメリカの7か国とEUの代表者たちが集まり、経済・環境・保健・教育・人道などの国際的な優先課題を議論する国際会合です。

G7サミットで扱われる議題については、各国政府から独立した国際社会のステークホルダー(企業や非営利団体、市民団体)によって形成される「エンゲージメントグループ」が政策を提言する仕組みがあります。私は、このエンゲージメントグループのうち、市民社会組織やNGOで組織される「Civil 7」(C7)に関わっています。C7は、G7サミットにあわせて「C7サミット」を開催し、「国際保健」、「経済正義・変革」、「環境・気候正義」、「人道支援・紛争」、「開かれた社会」、「核兵器廃絶」の6つのワーキンググループ(WG)を通して政策提言書を作成します。

このC7サミットですが、かなり昔からあったわけではなく、2018年頃から開催されていて、G7サミット開催地の市民社会組織がリーダーの役割を果たしてきました。前回日本で開催された伊勢志摩サミット(2016年)の時には、市民サミットのようなイベントはあったのですが、当時はC7が存在していなかったので、日本がC7を主導するのは今回が初めてとなります。

G7C7のイメージが掴めてきました。松原さんが共同代表を務める「G7市民社会コアリション2023」とは?

C7サミットを主導するのは開催国の市民社会組織なので、リーダーを担う日本の組織が必要になります。リーダーを務める市民社会組織として、例えば、SDGsを推進する市民団体などのとりまとめを行う「SDGs市民社会ネットワーク」や、国内NGOのハブ組織である「国際協力NGOセンター(JANIC)」といった日本で活躍する組織の力が必要でした。でも、このうちの一組織だけで世界的なイベントを引っ張っていくことは難しいので、NPOやNGOで構成される期間限定の連合組織を立ち上げる必要があったのです。こういった経緯から、「G7市民社会コアリション2023」(以下「コアリション」)が設立されました。

「コアリション」はC7サミットの最前線にいるんですね。代表に就任した際、どのような気持ちになられましたか?

「コアリション」の共同代表には、開発援助や人道支援を行う国際NGOである「ワールド・ビジョン・ジャパン」の木内真理子さんが就任されているのですが、G7サミットの開催地が広島に決まったので、広島で活動している私も代表に就任することになりました。

共同代表を依頼された時には、正直、「もう無理、無理!」ってなりましたね。これまで、SDGsや環境関連の国際会合を気にしていたところはあったのですが、こんなにもガッツリと関わることはなかったため「何をしたらいいんだろう?」と少し戸惑いました。特に、C7は英語で議論が進められていくことから、海外のNGOにいた経験はあっても、それほど英語が堪能なわけではないので、今は英会話を勉強し直しています。

「コアリション」は具体的にどのような活動をされているんですか?

「コアリション」は14の幹事団体をはじめとする多くの団体・個人で成り立っています。「コアリション」の中核を担う幹事団体は、C7サミット開催に向けたミーティングを毎月開催するほか、WGのキックオフイベント等も開催しています。このほかにも、私はC7の国際的な運営委員会の委員もしています。運営委員会では、昨年のエルマウサミット(ドイツ)での取組を基に、今年のC7サミットでの活動内容について議論したり、各WGの人選を行ったりしています。3月には、WGで議論した内容を基にC7運営委員会が提言書を作成し、4月のC7サミットで政府に渡すことになります。

なお、提言書について補足ですが、G7の議題にない内容をこちら側から投げても意味がないので、あくまで、G7の議題に寄り添ったテーマになります。例えば、G7で扱われる気候問題で一例を挙げると、海面上昇によって2050年に滅びると言われているキリバスという国があるのですが、これを防ぐには先進国と途上国の両方が議論していかなければなりません。このような問題に対して、「市民の立場からどのように問題提起するか」、「政府の対応はどうあるべきか」といったことを細かく提案していくことになります。

新たに核に関するWG (※ワーキンググループ)が設立され、記者会見をされていましたね。

昨年のC7サミットの議題に加えて、今回新たに「核兵器廃絶」のWGができ、12月に広島市役所で記者会見を開きました。設立には、議長国となる岸田文雄首相が核について話されていることや、開催地が広島ということが影響しています。核のWGができる前、C7運営委員会でWGのテーマについて議論することがあったのですが、私は事前に「コアリション」内でWGに関する意見を募集してみました。すると、広島の団体だけでなく、「核兵器廃絶キャンペーン」や「ピースボート」など外部から広島に関わってくれている団体から、核に関するWGを希望する意見をもらいました。こうした意見を基に、「コアリション」としてC7運営委員会に核に関するWGの設立を提案したところ、他国の承認も受けて、「核兵器廃絶」のWGが新設されました。

「広島でも何か取り組みを」とのことでしたが、広島でのイベントを計画されているんですか?

C7のWGは誰でも参加可能ですが、英語で進められていく分、NPOや市民活動をしている人にとっては、やはり参加のハードルが高い。また、WGのテーマも絞られているので、「子育て支援している人はどこに関心を向ければいいの?」などの疑問が出てくると思います。ハードルを少しでも下げて、より多くの市民に関わってもらえるよう、4月15日から17日にかけて、国際会議場を使って「みんなの市民サミット2023~G7広島サミットに市民の声を届けよう~」というイベントを開催する予定です。

みんなの市民サミット2023G7広島サミットに市民の声を届けよう~」とは?

この市民サミットは、G7サミットへの対話・提言を通して、「核のない、誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり」を私たちの手で創っていくことを目的としています。現在、広島だけではなく、世界から参加を願う声が届いてきているので、湯崎英彦広島県知事や松井一実広島市長にも来賓として参加していただけたらと思っています。

具体的には、初日の15日はプレイベント日として、国際会議場だけでなく、広島県内で活動している人々が繋がることができるイベントの開催を考えています。16日、17日は本番といいますか、国際会議場でオープニングイベントや分科会を開催します。この場で集まった市民の声を17日のクロージングイベントで再度ディスカッションし、「市民サミット共同宣言」のようなものを発信することで、市民からの声を政府に届けたいと思っています。

イベント開催に向けての活動は既に始まっているんですか?

私や広島で活動する「ANT-Hiroshima」の渡部朋子さんたちが呼びかけ人となって、1月27日に、「第一回企画ミーティング」を開催しました。このミーティングでは、市民がG7サミットに関わっていく仕組みのほか、市民サミットに関する説明を行いました。

福祉、環境保全、被爆者団体、まちづくりをしている人など約60人が参加してくれたのですが、自分で分科会を企画したい人もいれば、企画はできないけど誰かの企画とコラボしたい人など様々な方がいました。このミーティングによって、異なる分野の人と繋がって新たな視点が生まれるのではないかと思いますし、「この機会に一緒に活動できるかも」という声もありました。今後、参加者はどんどん増えるでしょうし、その参加者たちで「みんなの市民サミット2023」の実行委員会を立ち上げる予定です。※2月24日、「第一回実行委員会」を開催。

市民と共に活動していく中で苦労されていることはありますか?

私自身も1年前まではサミットについてほとんど知らなかったのですが、G7サミット自体やC7の活動が市民に認知されておらず、地域課題や市民活動とサミットとの繋がりがどうしても分かりづらい面があると思います。こうした状況下ではありますが、限りある時間の中で活動に参加してくれる皆さんの力を持ち寄って理解や共感の輪をどのように広げていくか、ということに苦労しています。

G7や社会課題に関心を持つ人はまだまだ少ないと思いますが、私たちの活動がサミットについて発信する契機となって欲しいですし、活動してきた人たちの活動がこれまで以上に活性化したり、広がったりするチャンスになればいいなと思っています。

活動を通して、市民に感じてほしいことはありますか?

意識の高い人や地域課題に関心を持っている人でない限り、NPOや市民活動にいきなり参加するなんてことはかなりハードルの高いことだと思いますが、私としては、G7サミットが広島で開催されることを活かして、市民がNPOや地域の活動に参加できるよういろいろなチャンネルを提供してあげられるチャンスだと感じています。

例えば、気候問題に配慮された作り方・食べ方を提供している飲食店では、誰もが行うであろう「食事」によって社会問題に関わることができます。「食事」というたった一つのチャンネルだけでも社会問題に関わることができるというように、その人自身に合ったレベルや参加方法を作ってあげる機会となるのではないかと思っています。

また、市民の方々には、政治に関わる方法はたくさんあるということを知ってもらいたい。政治に関わる方法を聞かれた場合、おそらく、大半の人は選挙を挙げると思うのですが、選挙は数年に一度しかないし、誰かを推薦するために投票したとしても、その候補者が、日常的にどう活動して、どういう働きで、どう成果を出すかまでは、なかなか追っかけにくいですよね。一方、「みんなの市民サミット2023」では、自分の声がしっかりと提言書の形になって政府に届くので、政治にすごく直接的に関わるチャンスだと知ってもらいたいですし、日常的に活動していない人には、ふだんから活動している人と交流することで、もっともっといろいろな情報を得たり、スキルを体得したりする機会にしていただきたいです。

最後に、松原さんのサミットに対する思いをお聞かせください。

広島出身広島育ちの私としては、核兵器のない社会はすごく大切だと思っています。その一方、核兵器廃絶までには膨大な時間がかかってしまうことも事実です。その間に持続可能な社会づくりに取り組んでおかないと、キリバスのように核がなくなる前に気候問題の影響で海面が上昇して国がなくなってしまうことになり、元も子もありません。この二つは同時進行でやらなければ意味がないので、今回のサミットがその契機となればと考えています。

日本で初めてC7サミットを開催するにあたり、これまでの市民サミットで積み上げてきた知見や人との繋がりのバトンを受け継ぎ、G7サミットで世界のより良い指針を決められるよう、世界中の人々の声をしっかりと届けていきたいです。そして、今回のG7サミットを機に、一人一人の市民が地域や社会と接点を持てるきっかけを一緒に見つけていきたいですね。

●プロフィール

松原裕樹(まつばら ひろき)
特定非営利活動法人「ひろしまNPOセンター」専務理事・事務局長

1982年広島市出身、広島市在住。
国内NGOや海外NGO勤務を経て、2012年より「ひろしまNPOセンター」に勤務。2023年5月に開催されるG7サミットにあわせて開催されるC7サミットの運営委員を務めるほか、「G7市民社会コアリション2023」の共同代表も務める。

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