【中国武術への道 】
Vol.20 外三合 日本刀の鍛錬からみた勁の特徴(その二)

【中国武術への道 】


中国武術の各門派を修行し、陳氏太極拳を専門として嫡伝の伝承者となった桂峰生氏があなたの知らない中国武術の世界をレクチャーいたします。

内三合は、内面の力によって身体の外面の力を最大限に引き出す。外三合は、逆に内面を支える器であり、具体的な技術へとつながる。内三合・外三合は相互に補完していることを内外相合といい、合わせて六合となる。六合は、「勁」あるいは「勁力」となって攻防技術に生かされている。

さて、日本語ではあまりなじみのない「勁」という漢字であるが、風雪に耐える芯のある強い草を指す勁草(けいそう)が比較的知られている言葉だろうか。門派ごとに「勁道」の特徴や種類はさまざまであるが、「勁」とは、中国武術を理解するうえで核心のキーワードである。「勁」を一言で表現するなら「精錬された強い力」だ。数十年前、北派拳術は勁を用いるから高級、南派拳術は力を用いるので低級というような表現もあった。

これは明らかに間違いで、たとえ「勁」という用語を使わない門派であったとしても精妙な力の操作を用いることに変わりない。私たち誰もが持っている「筋力」と精妙で鍛錬された「勁力」の関係について、私は世界に誇る製鉄の産物としての日本刀(※)の製造工程と構造の特徴にイメージを重ね合わせている。今回少し変わった視点ではあるが、日本刀の作刀から「勁」の理解にせまってみたい。

第一の視点は、炎を用いた鍛錬による質の変化である。日本刀の素材である「玉鋼 (たまはがね) 」は、良質の砂鉄である「真砂砂鉄(まささてつ)」を粘土で築いた炉にくべて、「鞴(ふいご)」で送風し、木炭の火力で低温還元する。日本古来のたたら製鉄法を使って作られた鋼だ。

三昼夜もの間、炎を生き物のように扱うことによって「玉鋼」を作り出す。大自然が恵む天然材料と人間の力だけで作るその技は、現代の最先端技術をもってしても再現が難しい高度な技術といえる。高温で一気に造り、あとから不純物を取り除く、現代の製鉄とは一線を画している。

「鍛錬」とは、刀を作るときに鋼を槌で叩き鍛える工程を表わす言葉であるが、あまりにも有名なこの言葉は、近年では刀の製作自体を指すようにもなった。転じて、熱い鉄を打つように厳しい研鑽を積むという意味でも知られている。鍛錬においては、平均2~3㎏の鋼をテコ棒に積み重ねるが、太刀一口(たち・ひとふり)の重さは1㎏前後なので半分以上の鋼が鍛錬によって取り除かれてゆく。

鍛錬とは、積み重ねると同時にムダなものを削ぎ落としてゆく作業でもある。テコ棒に積み重ねられた鋼は、水で濡らした和紙で包み、水溶き粘土と藁灰をつけて炉の中で加熱する。周囲の粘土が溶け、中心部まで真っ赤になるほど熱が行き届いたら、積み重ねた鋼が崩れないように槌で叩いて圧着させていく。

鋼を鍛える人数は、テコ棒を持って小槌で鍛える「横座」と、横座の指示に従い、大槌で叩く「先手」の二人。このとき大槌で叩くことを「相槌を打つ」と言い、慣用句の語源にもなった。鋼を叩いて長方形に伸ばし、鏨(たがね)で中心に切れ込みを入れ、半分に折返して槌で叩く作業を5~20回程繰り返すことで硬く粘り気のある鋼に変わってゆく。地金(じがね)に現れる模様はこの作業により決まる。鍛錬をすることで不純物はさらに取り除かれ、炭素が均一化されるため、鋼はより強靱に、洗練された金属となる。

一方、中国武術では、鍛錬を積み重ねた功夫を「炉火纯青(ろかじゅんせい)」の諺によって表現する。道家の丹薬を練る時、炉の炎が青く澄んだ色になると成功とされたことから、学問・技術や物事のやり方が熟達し、最高の域に達する例えとして用いられる。功夫や勁の水準を炉の火に例えれば、火の色は、初めに黄色。次に赤そして最後に完全燃焼しきった極致の純青になる。

「鉄」から「鋼」への質の転換を中国武術に置き換えるなら、「炎のような鍛錬」によって「力」から「勁」へと転化するということだ。「ムダなものを削ぎ落とし」「強さと粘りを持ち合わせ」た結果、第三者より「あなたの勁力は炉火纯青のレベルに到達している」と評されるのは、最高の賛辞である。

第二の視点は、相反する性質の組み合わせによって生じる変化である。折り返し鍛錬では、「皮鉄(かわがね)」と「心鉄(しんがね)」と呼ばれる二種類の鋼を製作する。

刃の部分などの外面の「皮鉄」には、炭素含量が多く硬く強靱な鋼を使用し、芯の部分となる内側の「心鉄」には、炭素量が少なく柔軟な鋼を使う。この二種類の鋼を組み合わせることを「造込み(つくりこみ)」と言い、組み合わせることで日本刀ならではの「折れず、曲がらず、よく切れる」という三つの条件を追求している。

一方、太極拳では、「綿中蔵針(めんちゅうぞうしん)」といい、綿の中に針を隠すという意味となる。日本刀の構造とは逆で外が柔らかく、内が剛となる。ことばの本来の意味は、「内心ひそかに悪意をもっている」ことを指すが、そこから転じて、外見上は一見柔らかく力がなさそうに見えるが、その実(そのじつ)一撃で倒す剛強で危険な技や勁力を潜めているという意味となる。剛と柔という、相反する力を併せ持つことを剛柔相済(ごうじゅうそうさい)という。

第三の視点は、水を用いた一瞬の質の変化である。焼入れとは、必要な部分の硬度を増してよく斬れる刀へと仕上げる作業である。刀身に粘土や木炭、砥石の粉などを混ぜて作った「焼刃土(やきばつち)」を塗布する。棟側には厚く、刃側には薄く塗布する。再び刀身が赤くなるまで熱し、水や油に一気に差し込んで冷ます。このとき焼刃土の厚い棟側はゆっくりと、薄い刃側は急速に冷却される。この温度差により、日本刀の特徴である反り(そり)が生まれる。直刀の突きを主体とした技法だけでなく、反りの角度を得る事により、斬る技法も発達するという構造上の仕組みも生まれた。

また、焼きの入った刃と入っていない地鉄の境界部分に刃文がうまれる。焼入れは熱して一気に冷却すると硬くなるという鉄の性質を利用したもので、熱した刀身の温度と同じく、冷却する水の温度も重要。この違いにより「沸出来(にえでき)」か「匂出来(においでき)」かの違いが現れると言われている。さまざまな「刃文」の中に生じる「沸(にえ)」や「匂(におい)」を含め、「姿(すがた)」や「地鉄(じがね)」と共に、日本刀の個性であり刀工や造られた時代、さらには真贋を見極める際の重要なポイントとなっている。

一方、武術修行において老師より与えられる口訣やヒントは、修行者を一気にレベルアップさせることがある。段階に応じて授けられる口伝もあるが、老師が弟子を観察し見極めた上でのヒントは、受け取った弟子にとってしばしば衝撃的な映像や言葉となって影響を与える。一瞬にして老師とイメージを共有し、技法に含まれる意味合いを理解する。私もこのような衝撃を何度も経験した。老師の示された一瞬の動作や言葉は、今でも脳裏に焼き付けられ、ありありと思い出すことができる。

(※)日本刀の作刀において、刀匠(とうしょう)や研師(とぎし)だけでなく、刀装具の「金工師」「鍔工師」「鞘師」「塗師」「蒔絵師」「白銀師」「柄巻師」等、多くの職人が携わっている。

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