【士業に訊け!司法書士・岡野慎平 】
Vol.5 札幌転勤、借金問題に挑む!

【士業に訊け!司法書士・岡野慎平 】


弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士、海事代理士など、「士業」(通称さむらい業)の面々が指南するお役立ちコラムです。

めっきり寒くなってまいりましたが、みなさま風邪などひかれておりませんか?司法書士法人キャストグローバル広島事務所代表社員の司法書士、岡野慎平です。コロナ感染拡大も一時に比べて減少してきたとはいうものの、寒さと換気に折り合いのつかない冬場は注意が必要です。まだまだお気を付けください!今回は東京新宿の司法書士法人に入社後、初めての転勤先となった北海道札幌編の第1弾です。

花の都・東京新宿から北の大地・北海道札幌へ。2008年の春の初めに転勤した札幌事務所は前年の秋に開設したばかりで、当初は社長自らが立ち上げに赴任されており、わたしも社長が多忙な時はピンチヒッターとして何度か出張に足を運んでおりました。社会人になるまで北海道は行ったこともなく、まさか働くことになるなど夢にも思わなかったですね。転勤辞令に躊躇したか?というとそうでもありません。

実は、本来、転勤を打診された新宿事務所の先輩が遠い札幌への転勤を断ったため、2年目の新米司法書士で経験は少ないのに勢いだけはあった自分が「僕に行かせてください」と志願して、お鉢が回ってきたというのが真相です。正直に言えば、丁度その頃、自分が司法書士試験に挑む発奮材料となった当時の彼女(VOL.1参照)と別れたばかりで「心機一転して転勤先で新たな出会いに期待しよう」という思いや、オープンしたばかりの札幌事務所のスタッフには、有資格者の司法書士がいなかったので「社内で出世する近道かも?」という打算もあったのですが…。

立ち上げ支援のため、出張で訪れていた頃に感じた札幌の街の印象は、予想以上の大都会だったことと、新宿に比べてとにかく街がきれいに整備されていること。また、人口が多くてちょっと忙(せわ)しない東京に比べ、おおらかで優しい人が多いように感じていました。ちなみに事務所の場所はJR札幌駅と日本三大歓楽街ススキノの中間あたりという、新宿の事務所と同じような自分好みの恵まれた環境⁉です。北海道だけに寒いのは仕方ありませんが、開設後、半年たらずの事務所なのでオープニングスタッフ同然の立場で参加することになり、俄然やる気が湧いてきました。

着任すると早速仕事に取りかかったわけですが、新宿時代は新米司法書士として登記の手続きばかりこなしていたのに対し、札幌事務所では過払い金や借金整理が社会的な問題になりはじめていたこともあって、お金に関連する案件の扱いが増えており、相談者と対面でのヒアリングや交渉ごと、裁判出廷などが主業務になりました。キムタクの「HERO」や漫画の「カバチタレ」に出てくる法律家に憧れて司法書士になったのに、なんだか“手続き屋”になったような気がしていた自分とすれば、書類よりも人と向かい合える仕事が増えるのは願ったり叶ったりでした。

ただ、当時のわたしは、まだ25~26歳です。自分よりはるかに人生経験のある50~60代の方が大事なお金の問題を相談に来るわけですから「一見、頼りないこの若造で大丈夫か?」と思われるのはしょっちゅうで、専門家として認めてもらうのも大変でした。何しろお金がからむとシビアですよ。例えば、借金した人が過払い金を請求する交渉の場合、お金を借りていた側が「過払い金を返せ」と迫るわけで、それまでとは立場が逆転します。両者の間で「○○万円で折り合いがつけられないか?」「絶対に嫌だ。びた一文まけない!」といった攻防が繰り返されることもザラでした。

若くして妥協のない交渉の場に立ち会えたのは貴重な経験になったし、やり甲斐も感じたものです。それはさておき、借金問題でお金が返ってきた人には大いに感謝されますが、借金を圧縮できたものの返済が残るケースもあり、そんな時は次の対策が必要となります。一番印象に残っているのは、ある自営業のご主人のこと。この方は返済額が圧縮してもまだ2~3,000万円もあって普通ならば自己破産案件だったのですが、事業に必要なものを差し押さえると仕事ができなくなるため、自己破産を強く拒否されました。しかし、和解後もその返済額では月々の支払額が大きく、半年くらい経った頃に貸した側の金融業者から「返済が滞っている」との連絡がありました。

わたしが自宅に電話してみると奥様が出られ、憔悴しきった声で「主人は自己破産せず、自力で返済する道を希望しましたが、やはり無理。家庭崩壊ですよ」。返済が苦しくて家族も追い詰められていること知り、「本人の意思に反しても自己破産や民事再生を進めるべきだった」と電話口で自分の選択を後悔することに。責める先がない奥様からは「あんたのせいだ!」とたたみかけられ、やりきれない気持ちになりました。この一件を機に自分を戒め、それまでは本人が返済を希望されたら自己破産ではなく和解の道を勧めることもありましたが、その方のライフスタイルで返済が可能であるか?を厳しくチェックして判断するように軌道修正した次第です。

話は前後しますが、わたしが赴任した当時の札幌事務所のメンバーは10人あまりで全員が女性でした。しかも司法書士はわたしだけで、同い年のひとりを除いてはみんな年上です。仕事ではツライ思いをすることもありましたが、都会なのにギスギスしていない札幌の街で、事務所の近くの社宅から女性ばかりのハーレムのような職場に通う毎日は充実していましたね。おっと、そのメンバーでただひとり同い年だった事務職の女性が現在の妻です。事務所立ち上げの頃、初めてわたしが出張で訪れた時に同僚と一緒に札幌の街を案内してくれたのが出会いでした。のちに結婚して、家族になってしまうとは…まさに縁は異なもの⁉ 個人的にも人生の転機となった北の大地での奮闘記は、まだまだ続きますので、乞うご期待!

Hiroshima Personの最新情報をチェックしよう!